5月22日、東京地裁で開かれた後半では、これまでの無罪主張から一点、起訴された10の事件すべてを「全部、事実です」と認めた (c)朝日新聞社 @@写禁
5月22日、東京地裁で開かれた後半では、これまでの無罪主張から一点、起訴された10の事件すべてを「全部、事実です」と認めた (c)朝日新聞社 @@写禁

 4人の誤認逮捕を生んだパソコン遠隔操作事件は、自作自演がばれて、急転直下。“詐欺の天才”に騙され続けた辣腕弁護士が、事の顛末を語る。

 法廷で見せる舌鋒鋭い姿とは異なり、時折、言葉の間隔を開けながら落ち着いて語る。パソコン遠隔操作事件で無実を訴えていた元IT会社社員・片山祐輔被告(32)の主任弁護人を務めた佐藤博史弁護士に、本人の事務所で直接、話を聞いた。「足利事件」を無罪に導くなど辣腕として知られる人だ。

「『全部自分がやった、先生の顔に泥を塗ってしまった』と言いながら、声は淡々としていた」

 5月19日夜9時半ごろ、帰宅途中の佐藤弁護士の携帯電話に、その日突然行方不明になっていた片山被告から電話がかかってきた。東京・荒川の河川敷に、“真犯人”メールの送信元となったスマートフォンを埋める姿を捜査員に目撃され、事態は一転。片山被告が真犯人であることを認めた瞬間だった。

佐藤弁護士は唇を噛む。

「詐欺の天才だ」「完全に騙されたことになるが、否定的には思っていない」

 結果からすれば、これまでのやり取りはすべて演技だった。

「自身が真犯人だったことを隠していて罪悪感がなかったか」と尋ねると、片山被告は「全然、思わなかった」と即答した。

「善良な部分を覆い隠す悪が“仮面”をかぶっていたことは間違いない。ですが、見破ることはできなかった」

 16日、片山被告は報道機関などに真犯人を装う自作自演メールを送ったが、それを片山被告に見せた瞬間、怒りに震えるかのように顔を紅潮させた。だが、それも見事な演技だった。

「紅潮させることも自然にできてしまう、と彼は言う。自身で“悪”をコントロールしている」

 佐藤弁護士は、そう言って肩を落とした。片山被告は以前「真犯人はサイコパス(反社会的人格)」と話していたが、自身についてこう話した。

「サイコパスは、自分だ」

 犯罪心理学に詳しい桐生正幸東洋大学社会学部教授によると、サイコパスとは、平然と嘘をつき、罪悪感とは無縁などの特徴を併せ持つ人のこと。そういう人が「自分で何かにカテゴライズしないと自身のアイデンティティーが保てないときに、自称することがある」という。

AERA  2014年6月2日号より抜粋