生まれたときから特定のイスに近い人と遠い人がいる。その差は最近、固定化が進むが、それを問題視する空気は薄まっている(撮影/写真部・松永卓也)
生まれたときから特定のイスに近い人と遠い人がいる。その差は最近、固定化が進むが、それを問題視する空気は薄まっている(撮影/写真部・松永卓也)

 2世のタレント、スポーツ選手、文化人など、さまざまな分野で「世襲」を目にする機会が増えた。この動き、最近では最高裁長官にまで及んでいる。

 今年3月6日付の朝日新聞夕刊1面にこんな顔写真付きの記事が載った。

<安倍内閣は、任期途中の3月末で退官する竹崎博允(たけさきひろのぶ)・最高裁長官(69)の後任の第18代長官に、寺田逸郎(いつろう)・最高裁判事(66)を指名することを内定した。寺田氏の父は第10代長官を務めた故寺田治郎(じろう)氏。親子2代での長官就任は初めてで、戦後生まれの長官も初>

 報道の通り、この最高裁判所長官人事は翌7日に閣議決定され、4月1日付で発令された。

 最高裁長官といえば、国会、政府と並ぶ強大な国家権力をもつ裁判所のトップだ。そんな地位を、親子で務めるケースが出てきたのだ。

 国会議員でも世襲のケースは多い。2012年の衆院選では、民主党は世襲制限公約を続けたが、自民党は骨抜きに。この年、国会議員を引退した福田康夫元首相と中川秀直元幹事長は、それぞれ息子が地盤を引き継ぎ、ともに当選を果たした。

 それでも、国会議員は選挙で当選しなければ、議員にはなれない。その点では、世襲議員と呼ばれる人たちは、世襲に関して一定の国民の支持を得ていると考えられる。

 寺田氏で特徴的なのは、まさにこの“国民の支持”という点だ。約30年という間隔をはさんでいるとはいえ、1組の親子が国民の了解も支持も得ることなく、司法の最高権力を手中に収めた。

「とても危ないと感じる部分があります」

 格差や社会階層に詳しい橋本健二・早稲田大学教授は、最高裁長官の世襲についてそう話す。

「社会全体に影響する意思決定に関わる人は本来、多様な社会階層の出身であることが望ましい。一つの家族出身ということは、同じ文化を共有していたわけで、似たような価値観が司法判断にも反映されやすい。司法の硬直化がますます強まりかねません」

AERA  2014年6月2日号より抜粋