組織の精神はトップから生まれる──。経営学者のピーター・ドラッカーが残したこの言葉は、サッカーの世界にも通底する。こと世界に目を向ければ、タイプが異なる名将の采配に、ビジネスのヒントが隠されている。

 海外サッカーの名将をタイプ別に分類してみた。個性重視か組織型かを軸に、名将たちのトレンドを探ったところ、潮流は一目瞭然で、規律重視型。アーセナルのベンゲルやチェルシーのモウリーニョ、バイエルンのグアルディオラら、そうそうたる面々がこのタイプに分類された。もちろん、このタイプが必ず結果を出しているわけではないが、有能な選手をコントロールするために求められるのは、個性の解放ではなく、強力な規律に基づく組織的なチームづくりであることがわかる。

 チェルシー(イングランド)、レアル・マドリード(スペイン)、インテル(イタリア)といった欧州のトップクラブを渡り歩くジョゼ・モウリーニョ監督は、このタイプの典型的な名将だ。かつて、体育教師をしていたモウリーニョは、プロ選手としての経験がない。それでも各国リーグやカップ戦で幾度もチームを優勝に導いた。そんな自らをリーダーとして「スペシャル・ワン(特別な存在)」と呼ぶ一方で、重要な一戦に敗れたあと、こう語ったことがある。

「今日の戦いで選手たちを批判したいなら、まず、私を殺してからにしてほしい。彼らは最高の試合をしたのだから」
規律に従う選手たちを守り、全責任は己にある、と矢面に立つ──。部下のモチベーションを保つ人心掌握術の、最たる一面だ。サッカーライターの木崎伸也さんは言う。

「クラブチームの場合、選手の獲得などの補強はクラブ側が行うので、多くの監督には人事権がない。つまり、監督は『与えられた材料で料理をしろ』というシェフにすぎないのです。だからこそ、モウリーニョのような方針が良しとされるケースが多い」

AERA 2014年5月26日号より抜粋