タイ・バンコク市内中心部の、ある不妊治療クリニック。タイ語、英語、中国語などさまざまな言語が飛び交い、生殖ビジネスの中心地であることを示していた。タイはいま、世界で最も自由に不妊治療が受けられる国の一つである。精子提供、卵子提供、体外受精、代理母、男女産み分けからそれらの組み合わせまで、禁止する法律がないため、お金があればなんでもできる。さらに、病気かどうかなど、そのような治療を必要とする理由を聞かれることもない。

 先進国の患者や途上国の富裕層が、タイの高い技術や自国で利用できないサービスを求めてやってくる。国内では難しい卵子提供を受けるために渡航した日本人もいる。仲介業者を通じての卵子提供は、タイで200万円程度と米国の500万円より安い。代理母は500万円が相場。タイ人の卵子ドナーが得る対価は10万円程度。日本人がタイに滞在してドナーになると60万円程度を受け取るといわれる。

 仲介業者や病院にとって日本人は、「よいお客さん」だ。医師への質問が少なく、文句を言わず、価格交渉をせずに言われたままに支払うからだ。

 韓国出身の仲介業者は、1年ほど前にインドからバンコクにビジネスの場を移した。「中国人、韓国人、日本人などアジア人に比べて白人の方がよいサービスを受けている印象。日本人は金持ちというイメージがあり、他の国からの患者に比べて1~2割は高い金額を支払っていると思う」と話す。

AERA 2014年5月26日号より抜粋