スターバックス コーヒー ジャパン「バナナ―」は限定のデザートフラペチーノ第3弾。新商品の発表イベントには定員の千倍を超える応募があったという(撮影/写真部・大嶋千尋)
スターバックス コーヒー ジャパン
「バナナ―」は限定のデザートフラペチーノ第3弾。新商品の発表イベントには定員の千倍を超える応募があったという(撮影/写真部・大嶋千尋)

 人の心をどう動かすかは、ビジネスの分野でも長く研究されてきた。無意識に入る店も、ついつい買ってしまうモノも、実は企業や商品、サービス、店舗に対する思いや、かきたてられた感情に支えられているのだ。

 モノを買いたいという人間の感情をつかさどっているのは右脳。公共料金や家賃など生活に必要なもの以外の出費は右脳が決める、と話すのは、起業コンサルタントの阪東浩二さんだ。

「消費者がサービスや商品を選ぶ基準は『快楽』を求めるか、『苦痛』を避けるかの二つに大別できる。まずは、かわいい、楽しい、嫌だというような感情による衝動買いで、価格や納期などの条件は次の段階で考えるのです。右脳でほしいと思っているときに、商品の良さを論理的に説明すると、左脳のスイッチが入って、逆に売れなくなってしまいます」

 その右脳を刺激し、次々とヒットが生まれている。スターバックス コーヒー ジャパンは、商品を手にした時の高揚感、つまり「快楽」のほうの感情を追求してきた。

 今年4月中旬から1カ月限定で発売した「フレッシュバナナ&チョコレートクリームフラペチーノ」は、バナナを丸ごと1本使った日本独自の商品で、ドリップコーヒーの倍近い額にもかかわらず、発売当日から爆発的な人気となった。毎日10万本以上のバナナを確保したが、全国の店舗で昼ごろには完売状態。ネット上には「もう3回もアタックしているのに、いつも売り切れで飲めないよーーー泣」「スタバに走ったが、間に合わなかった。」などと嘆く声や穴場の店舗情報、飲んだ感想などがあふれた。同社広報部長の足立紀生さんは、口コミで人気に火が付いた背後には、スターバックスのファンたちの広がりがあると説明する。

「店舗のアルバイトを含めパートナー(従業員)には、接客マニュアルがなく、それぞれの自主性を大事にしています。有給で最低40時間の研修があり、特別なオペレーションが必要な限定商品にも皆が対応してくれる。テレビCMなどの純広告はゼロですが、日常から離れる心地よい空間は、自分を取り戻したい時のアイコンになっていると感じています」

AERA 2014年5月19日号より抜粋