カメラを首からぶら下げて歩く子どもたちは、島の名物。おじい、おばあ、農作業、夕焼け……何げない風景が子どもの目で切り取られる(撮影/ジャーナリスト・津山恵子)
カメラを首からぶら下げて歩く子どもたちは、島の名物。おじい、おばあ、農作業、夕焼け……何げない風景が子どもの目で切り取られる(撮影/ジャーナリスト・津山恵子)
「面白いお花の写真が撮れた!」。伊礼輝南ちゃん(9)にコスモスを少しぼかして撮る方法を教える比嘉さん(撮影/ジャーナリスト・津山恵子)
「面白いお花の写真が撮れた!」。伊礼輝南ちゃん(9)にコスモスを少しぼかして撮る方法を教える比嘉さん(撮影/ジャーナリスト・津山恵子)

 エメラルドグリーンの海へ向かって駆けっこする体育の授業。昼休みは、先生と紙飛行機。ケータイ、塾、ゲーム機なし。もちろん、いじめもなし。

 そんなのびのびとした小中学校が、沖縄県宮古島市の西南にある人口約180人の離島、来間(くりま)島にあった。

 昨年度、来間小中学校の在校生は小中学生とも3人ずつ。今年2月末の2日間、父母、市民も参加するプロジェクト「カメラの不思議」が開かれた。講師陣は、沖縄出身で米ニューヨーク在住の写真家、比嘉良治さん(76)ら7人のグループだ。

「あー、逆さだ」

 真っ暗な理科室を、ピンホールカメラに見立てた。窓を覆う黒いカバーに穴を開け、校舎裏の景色を室内のスクリーンに映しだすと、子どもたちから歓声が上がった。民家のオレンジ色のれんが屋根、緑の木々、道を通る車などがはっきりと映しだされる。比嘉さんが子どもたちに語りかける。

「これがカメラの仕組み。みんなの目もレンズと同じく逆さに見えているものを、脳が真っすぐに見せている。人間の目はよくできているね」

 比嘉さんは、都会から遠く離れた離島の子どもたちに、撮影を通して、外のものに目を向け、やがては世界のことを知らせたいと、使わなくなったデジカメを仲間から集め、学校に寄付。同島には過去5回訪問した。

 今回は、生徒の減少で3月末の閉校が間近に迫っていた中学校のために、比嘉さんらが企画した特別イベントだ。

 子どもも、写真撮影で少しずつ変化をみせている。「小さいものを撮るのが好き」と話す小学3年の砂川野乃花ちゃん(8)。母親の葉子さん(39)はこう話す。

「以前はのんびりして本ばかり読んでいた子が、外に出て写真を撮り、比嘉先生みたいにニューヨークに行くと言い始めました。親はもうびっくりしてるんです」

 葉子さんは放課後、子どもたちを集め、撮影会を続けてきた。生徒の写真は今年8月、東京・銀座の画廊で展示される。

 比嘉さんらは滞在中、画廊に展示する写真を選んだ。驚いたことに島の「おじい、おばあ」の写真が少なくない。地域の誰もが、子どもと近い存在であることが伝わる写真だ。

「テレビが発達しても、離島は行動範囲が狭い。写真は媒体であって、絵を描くように、粘土をこねるように、内面を外に向かって表現することを知ってくれればいい」(比嘉さん)

AERA  2014年5月5日―12日合併号より抜粋