就職に強い医学部の人気が過熱している。しかし医師の仕事は、高偏差値や憧れだけではつとまらない。そこで子どもたちに向け、医師の適性を育む取り組みが生まれている。

 確かに、医師は、高収入が見込めるうえ、安定もしている職業だ。しかし、「親が医者だから」「成績がいいから」といった理由だけで医学部に入ろうとしても問題が起きてくる可能性がある、と指摘するのは、精神科医で、緑鐵(りょくてつ)受験指導ゼミナール監修の和田秀樹さんだ。

「頭がいいからと医学部に入っても、医師にはやはり適性があります。大学で解剖実習に耐えられずにやめる人や、医者になってから自分に向いていないと言ってやめてしまう人もいます。また、親に『医者になりなさい』と言われても、本気で医者になりたいと思わなければ勉強に身が入らないでしょう」

 臨床医は、人の命にかかわる仕事であり、肉体的にも精神的にもハード。さらに、患者と接するコミュニケーション能力も必要だということをしっかりと知ったうえで、覚悟を決めて志望してほしいというのは、医学部に卒業生を送り出す高校側の共通した思いだ。

「コミュニケーション能力や医師としての資質を身につけるためには、いろいろな経験をすることが大事です。小さい頃に部活や競争での失敗や挫折などで傷ついたりつらい経験をしたりすると、人の気持ちがわかるようになります」(駿台予備学校の石原賢一情報センター長)

 OB医師による講演会の実施や、医学部の研究室訪問、大学と連携した探究活動などを行う学校も増えてきている。医学部を志望する生徒のために、医師としての資質を向上させるさまざまな取り組みを行っている高校がある。

 江戸川学園取手(茨城)では、医師志望の生徒が多いため、1993年から高等部に医科コースを設置した。今までに1073人が同コースから医学部に合格している。同コースでは、毎月、医師らの話を聞く医科講話が行われるほか、年に数回の1日医師体験、介護老人保健施設でのボランティア活動などを実施している。

 3年生の新妻楠望さんは、

「高2のとき、1日医師体験で手術着を着て糸結びをしたときには、医師になりたいという思いがさらに強くなりました。施設でおやつの配膳をしたり、入浴後の高齢者の髪を乾かしたりしたときに、喜んでもらえたのがうれしかった。将来、医師になったとき、患者さんが笑顔になれる医師になりたいです」

 と、笑顔を見せた。

AERA 2014年4月21日号より抜粋