「STROKE」の組み立てを担うミノン。箭内裕(中央)は休日にホームセンターで効率のいい組み立て器具を探すほど、愛情を持って作る(撮影/遠崎智宏)
「STROKE」の組み立てを担うミノン。箭内裕(中央)は休日にホームセンターで効率のいい組み立て器具を探すほど、愛情を持って作る(撮影/遠崎智宏)
LEDデスクライト「STROKE」は白いパイプを曲げただけのシンプルなデザイン(撮影/遠崎智宏)
LEDデスクライト「STROKE」は白いパイプを曲げただけのシンプルなデザイン(撮影/遠崎智宏)
ワイヤレス充電器「REST」は、ベッドサイドにも溶け込むよう、本体はスギ材で作った(撮影/遠崎智宏)
ワイヤレス充電器「REST」は、ベッドサイドにも溶け込むよう、本体はスギ材で作った(撮影/遠崎智宏)

 製品の企画から製造、販売まですべて1人でやってのける「ひとりメーカー」。大企業とは違った魅力をもつそんな働き方が、話題になっている。

 直径1.5センチの白いパイプを曲げただけのシンプルなデザイン。先端部分のスイッチを押すと、内部に埋め込まれたLEDから、やさしい光が舞い降りる。モノ本来の色を照らし出してくれる光だ。

 LEDデスクライト「STROKE」は、八木啓太(30)が大手メーカーを辞めて2011年2月に1人で始めた家電メーカー「ビーサイズ」の製品だ。個性的で目を引くデザインなのに、存在感を主張しすぎない不思議な魅力がある。2作目のワイヤレス充電器「REST」もスギ木材を使い、ベッドルームにも溶け込む。八木は言う。

「製品を通して得られる体験を提供したい。ライトなら、ありのままを照らすことで資料や本に集中できたり、充電器なら寝室空間を汚さずに心地よく寝られたり。製品は主張せず、人間にそっと寄り添うだけでいい」

 自宅兼工場だった一軒家から昨年8月に移転したオフィスは、神奈川・小田原城のお堀端の古いビルの1階にある。広さ100平方メートルのワンフロア。1人で始めた会社は3人に増えた。八木は社長であると同時に、デザイナー兼設計者であり、生産にも目を配る。自ら車を運転して町工場へも足を運ぶ。大企業のものづくりとは一線を画す「ひとりメーカー」だ。

 八木の原点は少年時代にさかのぼる。大学教員の父親はオーディオや車、パソコンなどに凝る「物好き」。影響を受けた八木は工作に没頭した。小学2年生の頃は、九九を覚えるためのボードを製作。ボタンを押すと下に隠れていた答えがパカッと前に出てくる仕掛けを考えた。

 高校1年生のある日、父親が鮮やかなブルーの半透明の“もの”をかついで帰ってきた。初代iMacだった。「パソコンは四角い白いもの」という常識を打ち破る製品に衝撃を受けた。いつかスティーブ・ジョブズのようになりたい。そのために本を読みあさり、ものづくりには電子工学、機械工学、デザインの三つの知識が必要だと知った。まずは大阪大学に入学して電子工学を専攻。デザインは独学で学び、企業などが募集しているコンテストにも応募した。

 気づいたのは、コンテストでは目立つデザインが入賞しやすいが、奇抜なものはいざ使おうとするとうざったいということ。生活に必要なものは、もっと謙虚で、生活に寄り添うだけで十分だと実感した。ビーサイズの製品コンセプトはこの実感が原点になっている。

AERA  2014年3月3日号より抜粋