実は演奏に際して第3楽章の一部分が、縮められていたのである。この演奏会は「完全版の世界初演」と謳っていたこともあり、“作曲者”としては許し難かったのかもしれない。ただ短縮されたのは、2カ所で2分ほどのこと。わずかなカットに瞬時に気づく「絶対聴力」が、このときにはあったということなのだろうか。

 このほど発表された謝罪文で佐村河内氏は、こう述べている。

<実は、最近になって、前よりは、少し耳が聞こえるようになっています。三年前くらいから、耳元で、はっきり、ゆっくりしゃべってもらうと、こもってゆがむ感じはありますが言葉が聞き取れる時もあるまでに回復していました>

 しかし、完全版初演は4年前のことである。しかも<はっきり、ゆっくり>ではなく、80分にもおよぶ大曲のわずかな一部分の違いを瞬時に認識していたのである。これについて実行委員の一人は、「指揮者や奏者の動きから判断して、演奏の省略がわかったのだと思った」と言うが、当時居合わせた別の人は、「もしかしたら、全聾(ぜんろう)ではなく聞こえているのかもしれない、そんな印象も受けました」と振り返る。

AERA 2014年2月24日号より抜粋