江戸が生んだ天才浮世絵師・葛飾北斎に、絵師の娘がいたことをご存じだろうか。「おんな北斎」とも呼ばれた、北斎の3番目の娘、葛飾応為(おうい)。

「美人画においては自分をもしのぐ」と父・北斎に言わしめた女性絵師の肉筆画は、現在も十数点が確認されているのみ。いまだ生没年も不詳という謎めいた存在だ。

 応為の作品は数が少ないうえに世界中の美術館に散らばっており、これまで本格的な研究・紹介が難しかった。だが今年は三つの展覧会に、応為の主要作品、3点が展示されることになった。「葛飾応為『吉原格子先之図』──光と影の美」展(2月26日まで太田記念美術館)、「大浮世絵展」(3月2日まで江戸東京博物館、その後巡回)、「ボストン美術館 浮世絵名品展 北斎」(3月23日まで名古屋ボストン美術館、その後巡回)と、海外からも作品が里帰りする今年は、いわば貴重な「応為イヤー」となるのだ。

 応為の性格は北斎に似て豪放で、女らしいタイプではなかったとされるが、一度は町絵師・南沢等明に嫁いでいる。だが父譲りの性格に加え、夫の絵の拙い部分を指摘して笑うといった振る舞いもあり、離縁されることになった。

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