この時点で組織指導部は張氏と人事権などを巡り深刻に対立、張氏への警戒を強め始めていたのかもしれない。

 正恩氏の警護は護衛司令部の管轄だが、最も近い距離で密着警護するのは「六所」という別の武装組織で、組織指導部の所属になっている。「もし正恩氏と組織指導部の間に抜きがたい対立が生まれたら、体制を揺るがす事件に発展する可能性がある」(元労働党幹部)

 金王朝の腐食は進むばかりだ。金正日総書記の時代、正日氏が贈り物を山ほど抱え、工場の視察に来ると、機械は正常に動き、北のメディアは大宣伝した。だが稼働はその日だけで、翌日からまたストップ。そんなケースが少なくなかったという。指導者を喜ばせるため責任者がその日のために材料をかき集め、動かしたにすぎなかったからだ。

「そんなバカげたことが日常化していた。原料も部品も足りないからだ。でも指導者には怖くて言えない。それは正恩時代になっても変わらない」(在日ビジネスマン)

※AERA 2014年2月17日号より抜粋