(撮影/写真部・慎芝賢)
(撮影/写真部・慎芝賢)
(撮影/写真部・慎芝賢)
(撮影/写真部・慎芝賢)

 気軽なコミュニケーションツールと定着したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。しかし中には、そんなSNSを「おいしいツールではない」と指摘する専門家もいる。

『ネットのバカ』などの著書があるネットニュース編集者の中川淳一郎さんは昨年10月、ツイッターを「休止」した。10月13日の日比谷公園であった結婚式に出席した帰りに脱原発のデモに遭遇。デモの参加者から「こんな大事なデモやってるのに何が結婚式だ!」と言われたことなどをツイートしたところ「炎上」した。かねてSNSに懐疑的だった中川さんは、これを機会にツイッターを「休止」した。

 現在もアカウントはあるが、ツイートは2万人超のフォロワーへの告知を中心とし、管理もスタッフに任せている。

 ITが創りだした新しい「ソーシャル」空間にはさまざまなリスクもある。昨年は悪ふざけや犯罪行為の写真を、ツイッターでインターネット上に公開して問題になるケースが相次ぎ、「バカッター」という言葉が流行語大賞にノミネートされた。無料通話アプリのLINEが絡んだ殺人も起きた。SNSについて、中川さんは、こう話す。

「有名人や企業が宣伝に使うのには有効ですが、普通の人にとってはSNSはおいしいツールではありません」

 SNSと呼ばれるツイッターやフェイスブックでは、利用者は自分の生活や考えを発信し続ける。フォロワーや友達の数、今日の晩ごはんの中身、内定の数や就職先など、日常を報告し合い、ランク付けし合う。

「『お前の人生と俺の人生は別』で良かったはずなのに、今は自分の人生がいかにイケているかを吐き続ける競争に踊らされている。評価されたくて、他人の目を気にしているのです」

 ツイッターで、「レイプされるのは女が悪い」とつぶやいた大学生は特定され、その大学生の就職内定先とされた企業には電凸(電話突撃)と呼ばれる非難の電話があったとされる。

 SNSで「失言」がないか見張っているネット住民さえいる。ミクシィやフェイスブックなどで、勤務先や自分の実名、家族の写真などを公開していると、監視しているネット住民が見つける。建物の屋根などが写っていれば、グーグルアースなどで場所を確認し、現地に行く人もいる。12年に発覚した大津市のいじめ事件では、加害生徒とされる同級生や親族の写真、過去の発言が、フェイスブックなどから暴露された。

「ネットこそが自由な言論の場だという意見があるが、実はネットほど発言に不自由な場所はない。ネットは一度の失敗を許してくれないんです。もし怒りに任せたり、酔っぱらった勢いで不用意な発言をしたりしたら、人生が終わりかねない」(中川さん)

※AERA 2014年2月3日号より抜粋