面白い番組の背景には、テレビマンたちの存在が欠かせない。彼らはムリを超え、時に緻密なまでの努力で番組を作り上げる。
バラエティー番組で昨年、見事な「スクープ」を飛ばしたのは、テレビ朝日の加地倫三(44)だ。演出・プロデュースを担当する「ロンドンハーツ」の9月の生放送で、お笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳が、元モデル女性との結婚を宣言したのだ。
淳から結婚の可能性を打ち明けられたのは、12年暮れのこと。そこから演出プランを練り始めたが、最も気を使ったのは情報漏れだった。かかわるスタッフを5人ほどにとどめ、結婚相手の両親に至るまで情報を漏らさないという「誓約書」を書いてもらった。
今のテレビ番組は、バラエティーに限らず、情報を小出しにして視聴者をあおり、引きつける手法が一般的。その方が視聴率をとれることは分かっているが、あえて"原点"にこだわる。
「テレビマンの原点は、視聴者をビックリさせること。原点に戻った仕事ができました」
「アメトーーク!」の演出・プロデュースも担当している。お笑いコンビ「雨上がり決死隊」の司会で、ひな壇に座った芸人たちが様々なテーマについて熱く語る番組だが、そこでテレビ界の常識を破ってきた。
アニメ、マンガは今でこそ番組の得意ネタ。しかし、06年に「ガンダム芸人」を放送したときは、そんなマニアックなテーマで1時間の放送は非常識だった。ほかにもプロレスラーの中で知る人ぞ知る越中詩郎だけにスポットをあてた「越中詩郎芸人」や「油揚げ芸人」などの企画に挑み、話題を呼んだ。
ムリな企画を番組として成立させる裏には、緻密な演出と創意工夫がある。「アメトーーク!」で使うカメラは、バラエティー番組としては異例に多い9~12台。芸人の発言やリアクションを撮り逃さないためだ。
「スタッフや出演者だけがおもしろがっているマスターベーションのような番組ではいけない。いつも視聴者の目線を持とうと心がけています」
昨年は、日頃から「ひな壇には座らない」と公言している「キングコング」の西野亮廣を引っ張り出した。それも「好感度低い芸人」という企画にだ。
ふつうに出演を申し込んでも断られる。悩んでいた時、西野のトークライブにサプライズで出演することに。舞台上で企画名を言って出演を頼んでみた。西野は爆笑し、快諾した。
「彼のポリシーもすごくわかるのですが、年に1回くらいは出てほしいから、何か言い訳をつくってあげたいと思っていた」
ムリ超えの奥に、芸人への愛情を潜ませている。(文中敬称略)
AERA 2014年1月13日号秋元康特別編集長号より抜粋