平安時代に編纂された『医心方』という現存する日本最古の医学書がある。隋唐の医書を参考にまとめられた東洋医学の百科事典ともいうべき書物だ。そこではセックスを人が健やかに生きるための養生法のひとつとして捉えているという。

「陰陽五行説」に基づいて男性を陽、女性を陰とし、両極の気を融合させることで生気を増幅させる。融合の境地は「和志」と呼ばれ、その歓喜にこそ性行為の重要性があるというのだ。

 また、性的障害に限らず、多くの患者を治癒してきた玄斎氏が、こんな事例を挙げた。 ある乳がん患者の女性がいた。がんの進行を食い止めるために、両乳房を切除する手術を受けた。幸い再発もなく、ほぼ通常の生活に戻ることができたのだが、精神的にうつ気味となり、セックスへの意欲も皆無になった。

 しかし、1年あまり鍼治療や気功マッサージを続けると、うつ症状の改善だけでなく、性反応が見られ始めた。マッサージによる肌の接触が、しだいに性的感覚を呼び起こしていったのだ。そしてある時、ないはずの乳首や乳房に触れられている感覚を取り戻したという。さらに、とても愛情深い夫の存在があったそうだ。

「妻を絶望感から救いたい、男女の絆としての性生活の再開を願う気持ちが、女性の大きな励ましとなり、彼女は再び女性性を取り戻すことができたのではないでしょうか」

 男性のEDにも愛情療法は効果があって、脳卒中の後遺症でEDになってしまった夫を元気づけたい一心で、毎日会陰部にツボマッサージを施し、半年で治してしまった女性もいるという。

AERA 2013年12月2日号より抜粋