米国で毎年開催されている世界的な講演会「TED(テッド)カンファレンス」。テクノロジー、エンターテインメント、デザインの頭文字をとったもので、文化、芸術、科学など様々な分野の人々がアイデアを披露し、そのスピーチは「世界を変えるきっかけになる」と注目されている。「拝聴」は、年会費7500ドルを払った会員だけに許される。過去には、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏や、元米国大統領のビル・クリントン氏がスピーチした。

 このTEDには、世界各地で独自に運営される「TEDx」というプログラムがある。登壇者や運営方法に地域の独自性が表れるが、米国以外で初めてTEDxを開催した国は、なんとプレゼン下手で有名な日本。2009年の「TEDxTokyo」以降、全国各地で続々と増えている。

魅力のひとつは、若者に発信の場が与えられることだ。コフレ・プロジェクト代表の向田麻衣さん(31)は、化粧してあげることで女性の自尊心を高める活動をしている。TEDxには3度登壇し、「一人一人の心に触れることで、社会を変えられる」と、プレゼンの持つ力を強く感じている。

 日本からアイデアを世界に向けて発信する「TEDxSeeds」には、13歳で登壇した起業家もいる。ケミストリー・クエスト社長の米山維斗さん(14)だ。9歳でカードゲーム「ケミストリークエスト」を考案し、12歳で起業した。TEDxSeedsでは、「興味をもつことの大切さと面白さ」を伝えた。年長の聴衆たちが、起業する根源的な動機に聴き入った。

 東京大学の「TEDxTodai」に登壇した法学部3年の志賀彩音さん(21)は、「東大女子」とくくられる悩みを語った。

 東大女子の中には、「頭のいい女」というイメージが重荷になり、自尊心を持てない女性がいる。東大女子の悩みを綴ったフリーマガジンも発行されているほどだ。志賀さんも、そんな「東大女子」の偏見に悩んだ一人だったが、プレゼンで「ステレオタイプによる偏見が人間の可能性を狭めることの脅威」について話し、ふっきれた。

「プレゼンには、外への発信だけでなく、自分に訴えかける効果もあった」

AERA  2013年11月25日号より抜粋