上司や同僚の普段とは違う一面が見られるのも、合唱の魅力。「以前より親近感が増して、仕事がやりやすくなった」との声も聞かれた(撮影/横関一浩)
上司や同僚の普段とは違う一面が見られるのも、合唱の魅力。「以前より親近感が増して、仕事がやりやすくなった」との声も聞かれた(撮影/横関一浩)

 従業員に一体感をどう持たせるかは、多くの会社にとっての課題だろう。合唱を通して、チーム力を高めようとの取り組みがある。この「合唱チームビルディング」の現場を取材した。

「合唱」を社内のチームワーク作りに役立てる。こんなユニークな活動をしているのは、ボイストレーナーで合唱指導者の永井千佳さん。このプログラムを思いついたのは2年ほど前だ。

 会社経営者たちと話す機会が多かった永井さんは、彼らが経営そのものより、社内の不調和に悩んでいるということに気が付いた。

 永井さんは以前から社会人の合唱団の指導をしており、その現場で初対面の人同士が練習後に急速に親しくなることを知っていた。そこで会社の従業員たちに合唱をさせてみたらいいのではないかと思い、2011年2月の自身の講演で、参加者に合唱をしてもらった。

「そうしたら、合唱をするまではおとなしかった皆さんが急に打ち解けて、合唱後の宴会が盛り上がったのです。この時、もしかしたらこれは社内の不調和を解決するきっかけになるのではないかと思いました」

 その後、「合唱チームビルディング研修」と名付けて、これまで15社でレッスンを行った。IT企業が多く、外資系の証券会社や金融なども含まれている。参加企業からは、こんな成果が報告されている。

「チームで難しいアカペラ合唱を成し遂げたことが、自信につながった」
「声が出ないと思っていたエンジニアが声を出せるようになって、営業と一緒に顧客の所へ行けるようになった」

 この日、永井さんがレッスンに訪れたのは、都内にある従業員35人のIT企業「e-Janネットワークス」。課題曲は「千の風になって」だ。これをバス、テノール、アルト、ソプラノの4パートに分かれ、アカペラで歌う。

 全体を合わせて録音し、聞き直しては細かな点をチェックしていく。録音を重ねるたび、今度こそは音を合わせようと、全員の集中度が増していく。すると3度目の録音の途中で、突然ハーモニーが生まれた。部屋の空気がワッと膨らむような感じがして、経験したことのないような心地よさが体を駆け抜けた。レッスンを終えて、参加者はどう感じたのだろうか。

「2回目には音を何とかまとめようとして、すごい一体感があった」
「みんなで力を合わせて一つのことに取り組んで完成させたときの感動を、大人になってから初めて味わった」

AERA  2013年12月2日号より抜粋