藤井聡(ふじい・さとし)(写真左)京都大学大学院教授(公共政策論)。昨年12月から安倍内閣の官房参与を務める。著書に『公共事業が日本を救う』など。近著『新幹線とナショナリズム』宇都宮浄人(うつのみや・きよひと)(写真右)日本銀行勤務を経て関西大学教授(経済学)。主著に『路面電車ルネッサンス』『鉄道復権』など(撮影/楠本涼)
藤井聡(ふじい・さとし)(写真左)
京都大学大学院教授(公共政策論)。昨年12月から安倍内閣の官房参与を務める。著書に『公共事業が日本を救う』など。近著『新幹線とナショナリズム』
宇都宮浄人(うつのみや・きよひと)(写真右)
日本銀行勤務を経て関西大学教授(経済学)。主著に『路面電車ルネッサンス』『鉄道復権』など(撮影/楠本涼)

 全国で多くの地方鉄道が経営危機に瀕している。しかし地方鉄道には独自の持ち味があり、健康維持にもつながる効果があるという。京都大学大学院教授で『公共事業が日本を救う』の著者である藤井聡氏と、関西大学教授で主著に『路面電車ルネッサンス』などがある宇都宮浄人氏が対談した。

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藤井:中長期的に見れば、鉄道をはじめとする公共交通機関が整備され、人々が集まって街の経済が活性化することで、全国資本が支配しがちなロードサイドビジネスに比べて、地産地消性が高まる。地元経済が潤えば税収も増えるわけで、ミクロな観点からも鉄道整備は便益をもたらす。

宇都宮:ヨーロッパでももちろんロードサイド店はありますが、日本は道路のほうだけお金をつぎこんでいるわけで、バランスが悪いと思います。

藤井:ロードサイド店だけになってしまうと地域コミュニティーがなくなり、地域固有の文化が消え、「まちづくりに参加しよう」という意識が薄れ、助け合いの気持ちがなくなる。現代社会で鉄道を失うことは日本人であること、人間であることを失うことにすらつながると言っても大げさではないでしょう。

宇都宮:健康維持という観点からも鉄道は重要だと思いますね。中心市街地に鉄道網を整備している富山市は、自家用車に乗れない市民が3割いるというデータを重要視しています。欧州で路面電車のある街には年配者がたくさん町中に出ている。鉄道が社会参加を促せば、社会保障費の節約に絶大な効果があるはずです。

藤井:原爆からの復興のシンボルは広島電鉄であり、東日本大震災からの復興のシンボルとして三陸鉄道があった。鉄道が地域統合、復活の象徴となるというのはロマンティシズムではなく、「リアリズム」です。

AERA  2013年11月4日号より抜粋