生活習慣病のひとつである糖尿病は、病状が進むと下肢切断という事態にもなりうる。そんな糖尿病の治療法として、「ウジ虫」を使用した方法が今、注目を浴びているという。

 糖尿病性壊疽(えそ)が起きると、足を切断する恐れもある。その治療に、ハエの幼虫(ウジ=マゴット)を使った治療法「マゴットセラピー」がある。

 数千年前からオーストラリアの先住民アボリジニーや中南米の古代マヤ文明などで行われていたという。抗生物質の効かない耐性菌の出現により、1980年代から再評価され、いまでは欧米を中心に世界30カ国以上に普及している。

『糖尿病とウジ虫治療』(岩波書店刊)を出版した奈良県のマミ皮フ科クリニックの医師、岡田匡(ただす)さんに聞いた。

「マゴットセラピーは、皮膚潰瘍(かいよう)部にマゴット(無菌性の生きた医療用ウジ虫)を閉じ込めて治療する方法です。糖尿病性足潰瘍が悪化して下肢の切断を迫られている患者さんの治療に効果を上げています。マゴットの分泌液に含まれる消化酵素や抗菌ペプチドなどにより、腐った組織を溶かし、耐性菌に抗菌作用を発揮し、潰瘍部を早く治すことが可能です」

 治癒率はかなり高いが、希望しても治療を受けられないケースもある。虚血性壊死や痛みを伴う場合や、昆虫アレルギー反応のある人は治療を中止する。

 当初はマゴットをオーストラリアから輸入していたが、2005年に佐藤卓也さんが株式会社ジャパン・マゴット・カンパニーを設立。常時出荷できるようになった。これまでの提供件数は600件。

 マゴットセラピーは自由診療。治療用マゴットの値段は50匹で約2万円。処置などに5千円前後かかる。それを週に2~3回取り換える。標準的には1平方センチあたり8~10匹使う。2~3回で終わる場合が多いが、数十回も治療を受ける人もいる。マゴットの必要数は、傷の大きさに比例するので、4週間前後治療する人の場合、40万円前後の負担になる。

AERA 2013年11月4日号より抜粋