小泉純一郎元首相(71)が繰り返す「脱原発」発言が今、政界に影響を与えつつある。8月下旬に毎日新聞のコラムで、「脱原発」発言が伝えられると、9月24日には、東京・六本木ヒルズで開かれたフォーラムに小泉氏本人が登場し、90分にわたって「原発ゼロ」論を繰り広げた。1日に名古屋市内の講演会で熱弁を振るい、16日の千葉・木更津ではテレビカメラを入れて主張を繰り返した。

 立て続けの発信の波及効果は、さっそく国会論争に表れた。10月21日の衆院予算委員会で小泉発言について問われた安倍晋三首相は、「私の政治の師匠は小泉氏と森喜朗元首相だ」とした上で、「政権を預かる立場の責任者としては、国民生活や経済活動に支障がないように責任あるエネルギー政策を進めていく」と答弁。さらに23日夜のBS朝日の単独インタビューでは、

「(脱原発は)小泉元総理の政治的な一つの勘もあるんでしょうが、(代替燃料費は)1年間で4兆円近いですね。これがずっと続いていくと、大変なことになる。いまの段階で(原発)ゼロを約束することは無責任だと思う」

 とまで踏み込んだ。政権にとって、いま小泉氏の「原発ゼロ」論を真っ向から否定することは得策ではない。にもかかわらず、小泉発言を無視できない状況に追い込まれている。世論を巻き込み、問題を争点化させる手法は、まさに“小泉流”の真骨頂だ。

 しかし、小泉氏が講演会で語ったように「議員に戻る気はない。新党をつくる考えも毛頭ない」というのは本心だろう。小泉氏と定期的に会う関係者も、こう語る。

「新党なんて絶対ない。小泉さんから、政治の世界に戻る気なんてまったく感じられません。脱原発を熱心に訴えるのは、政治的な野心ではなく、過ちをつくってきた責任を感じているからだと思います」

AERA 2013年11月4日号より抜粋