弱くても弱くても、ファンはそのひたむきなチームの姿勢に惹かれてついてきた。今年、ついに「ご褒美」がもたらされるか (c)朝日新聞社 @@写禁
弱くても弱くても、ファンはそのひたむきなチームの姿勢に惹かれてついてきた。今年、ついに「ご褒美」がもたらされるか (c)朝日新聞社 @@写禁

 9月25日、広島は中日を下して16年ぶりのAクラス(3位以上)とCS進出を決めた。最終的には負け数が勝ち数を3上回り史上最も低い成績でのCS進出となったが、1984~96年に広島に在籍した野球解説者の小早川毅彦さん(51)はこう喜ぶ。

「16年は本当に長かった。低迷期は勝負どころで負ける癖がついていたが、今年はそれを乗り越えられた」

 CS圏内に迫りながら後半失速を繰り返してきたこれまでと違い、今年は9月に入って7連勝を含む15勝7敗1分と調子を急激に上げてライバルチームを蹴落とした。カギとなったのは今年4年目を迎えた野村謙二郎監督(47)の用兵術。シーズン前半は、前田健太(25)ら先発の柱でも調子が落ちたら積極的に休ませ無理をさせなかった。広島OBで監督経験もある野球評論家の達川光男さん(58、監督時代は晃豊に改名)は、その我慢が後半戦でのスパートに効いたと語る。

「勝負どころで、エース級の投手を間隔を詰めて投げさせることができた。野村監督が1年間をトータルで見て戦えた結果」

 若手が戦力として定着したことも大きい。達川さんは、

「いまの戦力のほとんどは20代と若いし、みんな生真面目。今年Aクラスになり勝つ味を覚えたことで、これから5~6年間くらい常勝集団に生まれ変わるかもしれない」

 それ以上にカープの力となったのが、ホーム球場以外でも増加を続けるファンの後押しだ。『前田の美学』などの著書があるファン歴半世紀以上の作家、迫勝則さん(67)は、広島というチームの持つ「美学」が幅広いファンを引きつけるという。

「チームに資金がなく、12球団で唯一FA補強をしたことがない。ドラフトでもスター選手ではなく埋もれた逸材を狙う『清貧』の思想は、他の11球団にはない独自性です」

 CSのファーストステージであたる阪神には金本知憲や新井貴浩を、ファイナルステージで待ちうける巨人には川口和久や江藤智をFAで持っていかれた。そんな涙の歴史を知るファンにとって、広島が両球団に立ち向かう構図は燃えるはずだ。

 清貧を支えるのは、黄金期も今も変わらないハードな練習と全力野球に象徴されるカープイズム。

「チームに資金力がないことを選手たちが本当に悲観していない。僕が野球を全然知らなくても、きっとカープファンになったと思います」(小早川さん)

AERA 2013年10月21日号