メダルなしに終わった北京五輪から5年。楽天を優勝に導き、鮮やかな「倍返し」を決めた星野仙一監督。代名詞である熱血指導からの「脱皮」した「新生・星野流」のカギは、我慢だ。

 楽天創設初年度にコーチをつとめた野球解説者の高橋雅裕さん(49)は言う。

「銀次と枡田を去年からしぶとく使い続けたことがすごい。彼らの努力はもちろんだが、決してチーム状態が万全とは言えない状態で、2人を使い続けて戦力にしたのは星野さんの功績」

 星野監督は就任するとすぐ2人の素質を見抜く。昨年の春季キャンプでは、同期の2人に1年後輩の阿部俊人(24)を加えた3人を「どろんこ3兄弟」と命名。徹底的に鍛え上げ、開幕直後から積極的にスタメン起用し、枡田は終盤に4番も打った。今年は2人とも2軍落ちを経験したが、6月以降は再びスタメン定着。銀次は優勝後、「ダメな時も使ってくれた。監督には本当に感謝しています」と泣いた。

 失敗した選手には、次のチャンスを与えた。今季の開幕投手を務めたルーキーの則本昂大は7月5日、1回4失点で降板した。試合後、「あんな球を投げていたら、20点くらいとられる」と怒りをあらわにした星野監督だが、翌日の試合に則本をベンチ入りさせ、3回途中から2番手として登板させた。先発投手が翌日リリーフ登板するという異例の事態に発奮した則本は、3回1/3を無失点に抑え勝利投手に。以降ローテーションを崩さず、新人王をほぼ手中に収める14勝をマークするまでに成長した。

 一方、昨年の盗塁王、聖澤諒(27)が夏場調子を落とした時は、捕手登録の岡島豪郎とスタメンを替えた。ここぞのときは入れ替えで緊張感を持たせ、最後まで若手中心のチームのモチベーションを切らせなかった。

 楽天を昨年退団し、今は仙台市でスポーツバー「haunt」を営む中村真人さん(31)は、星野監督は「選手に思いきりを持たせる言葉をかけるのがうまい」という。9月上旬にスランプに陥った枡田には「どれだけ三振してもいいから思いきりバットを振っていけ」と発破をかけ、よみがえらせた。

AERA  2013年10月7日号