大学進学や浪人を機に迎えることの多い、一人暮らし生活。子どもを自立させ、また親が子離れするまたとないチャンスだが、一人暮らしで自立を成功させるには、その前段階が重要なようだ。

 都内在住の行政書士武石文子さん(50)には、一卵性双生児の息子たちがいる。昨年、次男は大学に現役入学したが、長男は浪人した。武石さんは、長男を志望大学のある仙台市内の予備校へ送り出した。寝泊まりするのは予備校の寮だ。しっかり者の弟に頼りがちな長男を独り立ちさせたいとの思惑もあった。

 今春、長男は仙台市内の国立大学に無事合格。1年間の自活を経て、すっかりたくましくなった。高校では部活動もせず、「生涯帰宅部」だったのに、大学ではいきなり体育会漕艇(ボート)部へ。退部者も出る厳しい部だが、「初めて自分で選択したことだから」と継続中だ。

「双子分離策の一環だったが、子離れ、親離れも同時進行でできた(武石さん)

 都内に住む翻訳業の永鳥太郎さん(48)の場合は、ひとりっ子の長男小太郎君を、志望大学のある福岡市内の予備校の寮へ行かせた。小太郎君は好き嫌いのはっきりした超マイペースな性格。同居していると、親が手取り足取り世話を焼いてしまい、大学受験時は勉強の進捗を心配した妻が円形脱毛症になった。

「夏休みに初めて帰京した息子がすごく変わっていて驚いた。前は親とでさえ会話が成立しないようなところもあったのに、きちんとコミュニケーションがとれるようになった。日常的に他人と暮らすことでトレーニングできたようです」(永鳥さん)

 どの家庭も「子離れ別居」の効果は高そうだが、東京都清瀬市教育委員で臨床心理士の植松紀子さんは慎重な意見だ。

「誰もが成功するわけじゃない。地方から出てきた学生が不登校やうつになる問題はどの大学でも深刻」

 植松さんによると、大学から自活できる子は、3~4歳で迎える最初の親離れ「母子分離」と、自我が確立する思春期での親子関係の構築がうまくできているケースだという。

「親の過干渉や無関心などで関係に不具合があると子どもは自立できません。関係構築を先送りしたまま、自活で一気に挽回しようとしても無理。それまでの子育てを見直し、子どもとよく話し合うべき。それと夫婦関係も重要です。子どもが自立できない家庭の典型は、妻が夫には目もくれず息子に入れ込むケースです」

 子どもとは距離を置き、夫婦は近づく。いつまでも子をかすがいにしてはいけないようだ。

AERA  2013年9月23日号