多数の野鳥が訪れる葛西臨海公園は、JR駅直結という抜群のアクセスもあり、年間300万人が訪れる(撮影/今村拓馬)
多数の野鳥が訪れる葛西臨海公園は、JR駅直結という抜群のアクセスもあり、年間300万人が訪れる(撮影/今村拓馬)

「よりによって、ここじゃなくても…」

 2020年東京五輪のカヌー(スラローム)競技場の建設計画に対する、都内在住の川沢祥三さん(65)の率直な思いだ。東京都江戸川区の埋め立て地に広がる都立葛西臨海公園。五輪招致計画では、この公園約80万平方メートルの西側約3分の1に、全長約300メートル、高低差5メートル前後のコンクリート製の人工流水コースを造る。さらに、コースわきに1万5千人収容の観客用スタンドを建設する(観客席は五輪終了後に撤去予定)。

 この計画に「環境破壊」の声を上げたのが、川沢さんが代表を務める「日本野鳥の会東京」(会員約3千人)と「日本野鳥の会」(サポーター約5万人)だ。

「私たちは、オリンピック開催に反対ではありません。ただ、1989年の開園から長い年月をかけて形成されたこの公園の生態系を壊すのは、あまりに影響が大きい」

 多くの人でにぎわう公園を川沢さんと歩いた。ひときわ大きな木はエノキ。赤い実はコムクドリなどの好物だが、競技場建設による移植が心配されているという。人工の小川もコンクリートで固められれば、鳥のえさのカエルや昆虫がいなくなり、食物連鎖に影響する恐れもある。

 海沿いの遊歩道では、高齢の男性が望遠鏡をのぞいていた。ウミネコが飛び、渚ではカワウやミヤコドリが羽を休める。男性は競技場建設について「もったいないね、たった4、5日のために」と話す。

 川沢さんによると、公園で観察された野鳥は226種。クロマツ林など鳥の居場所が失われ、えさとなる生物も減れば、鳥の種類も減ると予想する。「日本野鳥の会東京」と「日本野鳥の会」は共同で昨年夏、カヌー競技場を別の場所に移すよう求める要望書を都知事あてに提出。120を超す団体が支持を表明しているという。

「都会でこれだけ簡単に多様な自然に触れられる場所は他にありません。全体の3分の1だから影響はわずかだと考えているとしたら、あまりに安易です」(川沢さん)

 都側とは5回の交渉を重ねたが、開催地に決まったわけではないなどとして、要望は検討対象にされなかった。環境影響評価の開示要求も、招致活動への影響を理由に、都側は拒否し続けたという。

 都招致計画担当課は「環境への影響をできるだけ抑えながら計画した場所で開催することを目指すが、詳細設計などはこれからなので、野鳥の会のみなさんとは引き続き話し合いを続けていきたい」。

 両団体は今年7月、国際オリンピック委員会(IOC)に競技場建設は環境に悪影響を及ぼすと文書で訴えた。日本野鳥の会の葉山政治・自然保護室長は言う。

「五輪開催では、環境への配慮がうたわれています。競技場建設の影響がもっと小さくて済む場所があるはずで、そうした場所への変更を求めていきます」

AERA  2013年9月23日号