ところが、納体袋に入った父の亡骸は損傷が激しく腐敗も進んでいた。家族が父の姿を見るのはつらいと拒むほどの状態だったため湯灌をお願いすることに。葬儀当日、再会した棺の中の父は、不運の事故死を遂げたとは思えない安らかな顔に復元されていた。持井は感動した。

遺族の心に残るのは、儀式としての葬儀ではなく、棺の中で安らかな顔をして眠る父の姿。私は葬儀に関わりながら、最後、実の父に触れることさえできなかった。自分が情けなく思えてきたのです」

 こうして彼女は、葬儀会社を退職し、湯灌師を育成、派遣する別の会社に再就職した。今では、湯灌師として年間1千人の遺体の旅立ちに立ち会っている。

「家族も拒む姿のご遺体を、なるべく生前に近い状態に復元し、再び家族にお返しする。こんなにも人に感謝される仕事はない。こんな私でも誰かの役に立っているんだというこの充実感は、ほかの仕事では絶対に味わうことができないのです」

AERA 2013年9月30日号