9月3日に首相官邸で開かれた原子力災害対策本部会議。安倍首相は「世界中が注視している。政府一丸となって解決にあたる」と呼びかけた (c)朝日新聞社 @@写禁
9月3日に首相官邸で開かれた原子力災害対策本部会議。安倍首相は「世界中が注視している。政府一丸となって解決にあたる」と呼びかけた (c)朝日新聞社 @@写禁

 役所に手品師がいる。ルールに従えば電力会社が吹っ飛ぶほどの廃炉損失を会計マジックで、みごと消してしまう。さてその損害は、誰にまわるのか。

 経産省によると、原発をもつ電力10社がすべての原発を廃炉にする場合、今の会計ルールでは、総額4兆4664億円の損失が出る。10社中6社で損失が純資産を上回り、債務超過に陥る。

 東京電力を例に、どんな事態になるか、経産省の資料をもとに試算してみよう。東電には事故を起こした福島第一の4基と別に、13基の原発がある。資産価値は核燃料を含め7571億円あるが、廃炉になると価値はゼロになる。さらに解体費用も必要となる。廃炉引当金を積んで備えているが、積み立て不足が東電の場合、4076億円もある。

 いまの会計ルールでは、これらを足し合わせた1兆1648億円を特別損失として計上しなければならない。純資産は8317億円。つまり3331億円の債務超過になる計算だ。

 福島第一の残る2基や、福島第二原発の4基は廃炉を求める声がある。柏崎刈羽原発は地元の新潟県が再稼働に反対だ。東電の原発はすべて廃炉、という事態もなきにしもあらずなのだ。汚染水対策にも政府が乗り出し、当事者能力を失う東電には、「ひと思いに法的処理」という声が各方面から上がる。

 ところが、経産省はそれを避けたいらしい。東電を破綻(はたん)させれば銀行が困る。持っている電力債の償還や利払いができない。株券は紙くずになる。経営責任どころか、行政責任も問われるだろう。

 そこで会計原則をフンニャリ曲げた。こんなやり方だ。(1)廃炉になっても引当金は運転停止後、10年延長できる。(2)廃炉と決めても原子炉などの価値を認め、減価償却できる。(3)福島第一で追加対策が必要になった場合、新たに作る設備の費用は減価償却を認める。新たに認めた引当金や減価償却費は、発電コストとして料金に上乗せできるようにした。

「経営破綻を回避するという結論が先にあり、会計常識を無視した特別なルールを役所がつくった。国家的粉飾といわれても仕方がない」

 企業の粉飾決算に長年取り組み、『公認会計士vs特捜検察』などの著作がある細野祐二氏は、そう指摘する。

AERA  2013年9月16日号