公園、喫茶店、家などさまざまな場所で執筆する(撮影/今村拓馬)
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絵本製作では、かわいいキャラクターを前に男3人が真剣に議論(撮影/篠塚ようこ)
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それでも本業は「映画プロデューサー」。小説や絵本の仕事も、映画に好影響を与えている(撮影/篠塚ようこ)
それでも本業は「映画プロデューサー」。小説や絵本の仕事も、映画に好影響を与えている(撮影/篠塚ようこ)
2014年5月公開予定の映画「青天の霹靂」の撮影現場を訪れ、関係者と話をする川村(右)・主演の大泉洋は、「川村さんが来ると、雰囲気が明るくなる。役者にとってそういう力ってすごく大事なんです」(撮影/篠塚ようこ)
2014年5月公開予定の映画「青天の霹靂」の撮影現場を訪れ、関係者と話をする川村(右)・主演の大泉洋は、「川村さんが来ると、雰囲気が明るくなる。役者にとってそういう力ってすごく大事なんです」(撮影/篠塚ようこ)

 数多くのヒット映画を手掛けてきた東宝のプロデューサー・川村元気(34)。これまで「電車男」「悪人」「告白」「モテキ」「おおかみこどもの雨と雪」など幅広いジャンルで映画をヒットさせてきた。いまは2014年5月公開予定の「青天の霹靂」に取り組む。ヒット作を生み出す背景を探った。

 映画プロデューサーの仕事は、原作を見つけることから始まる。川村は3年前、劇団ひとりが書いた同名小説を読み、すぐに映画化を企画した。日本アカデミー賞で4冠に輝いた「告白」の原作との出合いは、大阪の焼き肉屋で行列に並んでいたときだった。知人に並んでもらっている間に入った近くの本屋で、書店員が作った怨念めいたポップが目についた。ベストセラーや世間の評価よりも、誰かが強烈に好きなものに惹かれる。

 そのころ、川村はかつてアメリカでヒットした「時計じかけのオレンジ」や「セブン」のようなハッピーエンドではないエンターテインメント映画を日本でも見てみたいと思っていた。小説『告白』の舞台は学校だ。振り返ると、日本でも10年ほど前、「ダークサイドストーリー」「学校」がキーワードの「バトル・ロワイアル」がヒットしていた。

 ヒットの道筋は見えてきたが、まだ何か足りない。川村がそういうときに自分に課すのが「発明」だ。「告白」の場合は、結末の解釈を観客にゆだねる決断をしたことだった。普通、映画の結末は何らかの意味を持って終わるものだが、「告白」はどう解釈してもいいような終わり方にした。それが観客同士の会話を生み、ヒットにもつながった。

「青天の霹靂」の「発明」は、初監督に抜擢した劇団ひとりだ。川村は以前から彼の舞台を見て、その演出力に感動していた。「緻密で独特の世界観がある。全く新しいタイプの映画監督になるはずだ」と、起用した。主演の大泉洋も言う。

「初監督とは思えないぐらい堂々として、(役の)キャラクターの伝え方も的確。演出も落ち着いていて、とてもいいものが撮れている。川村さんの見る目の確かさがうかがい知れました」

 主役として川村の頭の中には、大泉が浮かんだ。ただ、マジシャンの主人公が劇中で挑戦するマジックの量は「ハンパない」(大泉)ほど多く、大泉は不安だった。それでも受けようと思った理由の一つは、川村の存在だったという。

「最初に読んだ原作も面白かったのですが、どんどんブラッシュアップされていって、最終的にとても面白い脚本に仕上がったんです。さすが川村元気だな、と。一緒に仕事したいなと思いましたね」

AERA 2013年9月23日号