制度にのっとった典型的な家族じゃない。そんな理由による社会的な差別が、相も変わらず続いてる。結婚していない「事実婚」夫婦の間に生まれた非嫡出子の遺産相続分を、嫡出子の半分と定めた民法に違憲判決が下され、制度はひとつ前進したかのようにみえる。だが相続以外でも、事実婚夫婦にとって不公平な制度はまだある。

 不妊治療の費用助成に関する神戸市のパンフレット。「対象治療法」の項目にあった「夫婦間における(治療)」の文字が、今年度から「法律上の夫婦間における」に書き換えられた。

 昨年末に助成を申し込もうとした社会福祉法人職員の溝渕裕子さん(41)は、心中やり切れない。自分のせいで変更されたと感じているからだ。

 2007年春、同じく福祉関係の仕事に就いていた夫(42)と市内で同居を開始。婚姻届を出すとどちらかが名字を変える決まりや、戸籍そのものに学生時代から疑問を感じていて、自然と事実婚に。3年後に妊娠したが、7週目で流産。昨春、不妊治療の病院に通い始め、体外受精に挑戦した。半年後、妊娠には至らなかったが、30万円近い治療費を請求された。

 婚姻届への抵抗感は強かったが、年末に区役所に行って提出した。助成(1回当たり最大15万円)の対象は法律婚の夫婦に限ると、市のパンフレットに書いてあったからだった。その足で担当部署に行って申請について質問すると、返ってきた言葉は「助成はできない」。婚姻前の治療だから、が理由だった。

「治療時に法律婚をしていなくてはならないとは書いていません。そもそも、法律婚の夫婦に助成を限定するのは、行政による事実婚差別じゃないですか」

 そう訴えたが、市は態度を変えなかった。「事実婚はいつ別れるかわからず、そうした人たちの子の誕生は支援できない」旨の説明もあったという。全国的には法律婚に限定して助成している自治体が目立つが、長野県塩尻市など、事実婚の夫婦にも助成している自治体もある。

 そのことを説明しても、「ヨソはヨソ」という反応だった。さらに、パンフレットが誤解を招いたとして、今後、事実婚の夫婦は対象外であることを明示すると言われたという。 溝渕さんはあきれる。

「求めているのはそんなことじゃなくて、事実婚でも助成対象にすべきということ。これではまるで制度の後退です」

 一方、神戸市こども家庭支援課は「生まれてくる子どもの幸せを考えなくてはいけない」と話す。

AERA 2013年9月9日号