ゴミ廃棄、原発建設、レイシズム、反政府デモ…揺れるトルコで、若き映画監督が動いた。

 何かをしなければという強い衝動に駆られた。トルコ北東部にあるチャンブルヌ村の真ん中にゴミ処理場が建設されるという。村民わずか3500人。建設反対を叫ぶ声は中央政府に届かなかった。いや、彼らは耳を塞いだのだ。誰かが犠牲にならなければならない──。それが彼らの常套句だ。

 トルコ移民2世として独ハンブルクで生まれ育ったファティ・アキン(39)にとって、トラブゾン地方にあるこの村は祖父母の故郷にあたる。ルーツのために自分ができることは何か。

「ドキュメンタリーを撮ろう」

 2007年、「トラブゾン狂騒曲」の撮影が始まる。撮影は5年間に及んだ。その間ハンブルクでは別の作品を製作していた。後にヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞を受賞する「ソウル・キッチン」である。シリアスな記録映画とコメディーの劇映画。全く違う映画を行き来することで、互いをより俯瞰できたのか。「ソウル・キッチン」で彼は30代にして世界3大映画祭での受賞を果たす。

 撮影開始から半年後、処理場が稼働し始めた。ペットボトル、生ゴミ、注射器、動物の死骸(しがい)…。分別も梱包もされず廃棄されるゴミは耐え難い悪臭を放ち、住民は窓を開けることさえできなくなった。真っ黒な汚染水が川に漏れ、農業や漁業に影響が出始めると、村人は半数以下に減った。

 折しも今年イスタンブールに端を発した反政府デモは、市内の数少ない自然であるゲジ公園の取り壊しに反対する市民運動がきっかけだった。

「ゴミ処理場建設と、ゲジ公園取り壊しの決定を下した責任者は同じ。エルドアン首相は環境犯罪を犯す一方で、高速道路や世界一巨大な空港、さらに原子力発電所まで造ろうとしている」

 現政権を痛烈に批判しながら、怒りは政府と結託する企業へ燃え移る。デモが起きた通りにあるバーガーキングは、警察官に催涙弾を投げつけられた人々が苦しみ、助けを求めた時、かたくなにドアを開けようとしなかった。人々はこのような企業の商品を買わない、行かないというボイコットを始めている。

「プロテストは社会的に意義あるものに発展しつつある。若者たちには抗議を続けてほしい」

※AERA 2013年8月26日号