夜の街が醸し出す背徳に、心がざわめく。何がやりたいわけじゃない。ただ逃れたかっただけなのだ(撮影/写真部・関口達朗)
夜の街が醸し出す背徳に、心がざわめく。何がやりたいわけじゃない。ただ逃れたかっただけなのだ(撮影/写真部・関口達朗)

 大人げないとわかってるけど、やってしまった「プチ家出」。子どもは心配だし、行くあてもないのに。帰るべき場所に戻る時、夫婦の新たな関係が拓けるのか。

 会社員の男性(36)は、妻が次にいつ家出するかとヒヤヒヤしている。専業主婦の妻は典型的な良妻賢母。長男(4)の育児を完璧にこなそうとしており、男性が「たまには息抜きしてきたら」と勧めても「息子を置いていっては楽しめない」と固辞する。

 だが、妻は皿洗いなどささいなことをきっかけに前触れもなく爆発する。言い争いの最後はお決まりのセリフ。

「もう嫌! 出ていきます!」

 入浴から寝かしつけまでの最も手のかかる時間帯を男性に押し付け、数時間姿を消す。「私の大変さを思い知れ」と言わんばかり。わざとケンカを吹っかけ、家出する「まっとうな理由」を得ているようにすら思える。

「自分の時間を持つなんてとんでもないという考えに縛られている妻には、家出という方法しか逃げ場がないのかも。計画的にしてくれたほうが、僕も仕事の段取りがしやすいし、息子も不安がらずに済むのに」

 子どものためにあえて家出を選んでいるという人もいる。外資系企業に勤める女性(39)は、夫婦ゲンカを長男(4)には見せないと決め、口論が白熱してくると自ら中断させる。

「ちょっと出てくるわ」

 近所のコンビニに駆け込んで缶チューハイを買って飲み、15分で冷静さを取り戻す。

 夫がキャリアの転機を迎えた最近は意見の食い違いが増え、家出の頻度も急増。月2回ほど長男を連れて徒歩5分の実家に帰り、時には近所のビジネスホテルも利用する。長男が寝ている横でテレビを見ながら缶チューハイをあおり、夫から届いた長文のメールにポチポチ返信する。面倒だが、顔を突き合わせて言い合うよりは解決の方向に進みやすい。携帯電話の充電器、仕事用の服と靴、下着や化粧品などを詰めた「家出バッグ」は部屋の片隅に常備している。

AERA  2013年8月12-19日号