8月1日から東京マラソンのエントリー受け付けが始まったが、いまやマラソンは走るよりもエントリーの方が大変なのだ。ランニングポータルサイト「ランネット(RUNNET)」では、先着順でエントリーが決まる大会に申し込みが殺到し、システムダウン。抽選でも10人に9人が落ちる現実。

 エントリーが過熱する中、犠牲になっているのは「ネット弱者」だ。以前は申し込み方法は郵便振替やコンビニ払いなどが多かったが、いまはネットエントリーが中心になった。ネットが使えないマラソン歴34年の千葉県の男性(72)は38歳の息子にお願いしていたが、ここ1、2年の過熱ぶりで頼みにくくなり、

「人気大会は出たくてもあきらめて、ローカル大会や練習会などに参加しています」

 と弱々しく笑う。市民ランナー文化を作ってきた人たちの居場所が失われつつあるのだ。ランネットを開設したアールビーズ社は「そうしたランナーにも配慮しなくては」とは言うものの、

「エントリー以外にもランナーたちのタイム計測やゼッケン追跡、交通規制解除の情報提供など、すべてのサービスがウェブで管理されている」(金城栄一取締役事業局長)

 とネットエントリーが主流にならざるを得ない事情を明かす。早稲田大学スポーツ科学学術院の原田宗彦教授もこう言う。

「人気大会はタイムラグのない電子決済システム以外では難しい。ネットがランナーのすそ野を広げている側面もあり、この流れは止められない」

 先着順に問題があるなら、東京マラソンのように抽選にしたらいいのではないか。だが、

「苦労してでもエントリーしたい思い入れのある大会もある。当選できるか分からない抽選はあまり賛成できません」

 と言うのは東京都在住の女性(54)。実家近くで行われる神戸マラソンを80代の母が楽しみにしているが、神戸マラソンは抽選制のため、毎年出場できるとは限らないのが悩み。

 主催者側も先着順か抽選かで揺れている。現在は先着順を採る手賀沼エコマラソン大会事務局の秋元忠美さんは、

「抽選の場合、誰かが外れるとグループごと参加をやめることもあり、踏み出せません」

 別の大会関係者によると、抽選だと当選しても入金してこない人も一定程度いるため、2次、3次の抽選が必要になり、手間とコストがかかるという。

AERA 2013年8月12-19日号