米国が同盟国をも盗聴やサイバー侵入の対象にしていたとの報道に波紋が広がる。米通信情報機関のNSAとは、一体どんな組織なのか。

 米国の通信情報機関「ナショナル・セキュリティー・エージェンシー」(NSA)を外務省は「国家安全保障局」と訳すが、これは誤訳だ。この場合セキュリティーは機密保全の意味だから「国家保全庁」が適訳だ。

 米軍は第2次世界大戦前から日本の外交暗号を解読し、大戦中に日本の陸海軍の暗号解読に成功した。解読部隊は暗号作成も行うから、「保全部隊」と称した。1952年に各軍の保全部隊を全国的に統括するNSAが大統領令で作られたが、当初は存在自体が極秘で、いまも設置法に当たる政令や人員、予算まで秘密だ。

 本部はワシントンの北東約30キロのメリーランド州フォート・ミードにあり、推定人員は約3万人。最高水準の数学者、電子技術者、語学者の集団だ。組織上は国防総省の外局で、長官はキース・アレクサンダー陸軍大将。4軍などの保全(傍受)部隊約10万人を傘下に置き、全世界の在外公館、米軍施設などに約3千の受信所があるとされる。米中央情報局(CIA)の人員は約2万人と推定されるから、世界最大の情報機関だ。海外の主要拠点は日本の三沢、英国のメンウィズヒル、豪州のパイン・ギャップなどだ。

 95年6月、ジュネーブでの日米自動車交渉では、当時の橋本龍太郎通産相と東京の電話をNSAが盗聴し、CIAが要約してカンター米通商代表に毎朝届けたことが米国で報じられた。日本政府は米国に真偽を問い合わせたが、回答を拒否された。

 米空軍三沢基地の一角「セキュリティー・ヒル」には通信情報部隊約1600人が勤務するとみられ、冷戦終了後にアンテナが増設され、行動の活発化を示す。標的の日本政府が「思いやり予算」で三沢基地の維持費を負担する珍事態だ。

AERA 2013年7月15日号