大学新入生の心の病といえば「5月病」だったが、最近の社会人がかかるのは「6月病」だ。医学的には「適応障害」に当たるという6月病はうつとは異なり、ストレスによって引き起こされるため、対応はカウンセリングが中心となる。主な症状は食欲不振、寝付けない、会社に近づくにつれ気分が悪くなるなど。最近では不慣れな職種に異動させられた中堅社員や転職者が無理を重ね、6月病にかかるケースがあるという。

 都内のパソコン会社に勤める男性営業主任Bさん(36)もこの春の異動で苦手な上司に当たり、一時体調を崩した。

 紳士的な印象を抱いていたその上司は、直属になると別の顔を見せた。数時間かけ準備させた取引先との会議資料を本番で別のものにすり替える。チームで築いた成果を自分一人の手柄のように上に報告する。結果が全てで過程の努力は認めない。1カ月たった頃、家に帰っても、「目をつぶると上司の姿が浮かび、耳を澄ますと声が響く」現象にさいなまれ始めた。

 同僚は月曜日になると遅刻を繰り返すように。このままでは自分も潰されると感じ、直属の上司との会話をできるだけ避け、仕事の大切な報告は、さらに上の信頼できる上司にするようにしたことで、少し楽になった。

 Bさんは自衛策を取ることで症状の悪化を食い止められたが、全ての人が回避できるわけではない。会社に行けなくなり、診察室を訪れる患者を迎えるたび、「見ていて切なくなる」 と職場のストレス疾患に詳しい日本大学医学部精神医学系の渡辺登教授は話す。患者の多くが、会社や上司の期待する社員像に近づこうと努力を重ねた末に発症するからだという。

 渡辺教授によると、患者には40代もいるが、主に20~30代前半の男女が中心で、性格は真面目。新しい人間関係や仕事に慣れよう、最善を尽くそうとするが、要領がいいとは決して言えない。不明点があっても恥じて、上司や先輩に相談できず、一人で抱え込むタイプが多いという。

「給料分だけの仕事をすれば十分だと考える気楽なタイプは、まず受診しません」(渡辺教授)

 こうした適応障害の患者は医師が耳を傾けると、せきを切ったように話し始めるという。

「職場で孤立無援だった」「自分が情けない」「自分は無能だ」など、強い孤独や自己否定感を抱えていることが多い。

 6月病にかかる要因は主に三つある。もっとも大きいのが上司との関係。次に仕事の適性。そして仕事量の多さだ。上司との関係では、人前で叱りつけ自尊心を傷つける「部下キラー」の存在も。適性の不合も深刻な問題で、

「以前の職種で生き生きと働いていた人が異動後に適応障害となった場合、部署異動を求める診断書を書くこともあります」(渡辺教授)

 過重労働に関しては、先の見通しが立つ場合、一息つけるのでいいが、終わりが見えなかったり丸投げされたりの仕事が続く場合、強いストレスで心身の症状が引き起こされやすいという。裁量を与えられるか、自主性を持って仕事に取り組めるかがストレス回避の鍵になる。

AERA 2013年6月24日号