スティーブ・ジョブズ氏の死後もアップル人気は衰えをみせない。しかし、投資家の先読みは異なる。

 ジョブズ氏の死から約1年後の昨年9月、アップルの株価は705ドルの最高値を達成したが、その後半値近くまで続落。一方でスマホの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を開発した米グーグルの昨年9月の株価はアップルと同じ700ドル前後。しかし、直近ではアップルが400ドル台なのに対し、グーグルは5月半ば、915ドルの最高値をつけ、明暗を分けた。

「グーグルはアンドロイドからほとんど儲けていないが、多くのスマホメーカーを巻き込んでシェアを第一に考えた。アップルはシェアにはかまわず、製品が生む高い『利幅』を常に優先している」(ハイテクニュースサイト「ウバーギズモ」創設者のウベール・ヌウェン氏)

 ワイヤード・コムのエヴァン・ハンセン前編集長も、「一般的に、オープンな技術の方が、数の勝利で、価格も早く安くできる。アップルは一社だけの技術でクールなモノを作り、最初の勢いをつけた。これからどうするかが問題だ」

 ジョブズ氏の後を継いだティム・クックCEOは2年近く、既存製品のサイズを変えた新製品しか出していない。

「次の『革新』がテレビか腕時計なのかわからず、消費者や投資家がアップルの将来に疑念を抱いている」(ハンセン氏)

 アップルの「ワクワクする革新」は戻ってくるのか。「アップルらしさ」がなくなり、フツーの大企業になってしまったという失望は簡単には拭えない。

「アップルは借金ゼロ企業になって10年近いが、利益をひたすら商品の研究開発(R&D)に振り向けてきた。独善的だとも言われたが、今は株主に還元しすぎている」(ハンセン氏)

 アップルは株価が400ドルを切った直後の4月30日、調達額が170億ドルに上る社債発行を発表した。3月末で1446億ドルという潤沢な手元資金を持ちながら、約20年ぶりにあえて社債を発行。調達資金を、配当の増額や自社株買いなど株主還元策に使う計画だ。この発表直後、株価は10%跳ね上がった。ハンセン氏は言う。

「ジョブズなら消費者ではなく、株主にいい顔をすることはなかった」

AERA 2013年6月17日号