国際試合で戸惑わないようにと導入された統一球なのに、楽天・田中将大らからは「WBC球と日本の球は全然違った」との声が。何のための統一球だったのか(撮影/写真部・山本正樹)
国際試合で戸惑わないようにと導入された統一球なのに、楽天・田中将大らからは「WBC球と日本の球は全然違った」との声が。何のための統一球だったのか(撮影/写真部・山本正樹)

 ファンにはもちろん、選手にすら知らされずに行われた野球の公式球の変更。加藤良三コミッショナーをトップとする日本野球機構(NPB)は、その事実を選手側から追及されるまで伏せていた。

 NPBが隠蔽した理由として浮上しているのは、ミズノが「用済み」となった統一球の在庫を大量に抱えていたからでは、との疑いだ。

 ミズノによると、12球団が年間に使用する試合球は2万4千ダース( 28 万8千個)。リスク回避の観点から、常に約3カ月分、1万ダースの「在庫」を抱えていたという。

 2010年のシーズンまでは、ミズノ以外にアシックス、ゼット、久保田運動具店(スラッガー)の計4社の製品が公式球として認められていた。そもそも、なぜミズノが統一球のメーカーに選ばれたのか。

 導入当時、NPBは価格(1個850円)、生産態勢や品質管理などを総合的に判断したと説明していた。

 不採用となったスポーツメーカーの関係者によると、公式球は常に空調が整った倉庫に保管し、ボールが変形しないよう、月に1、2回は箱を縦、横に移動させるなど細心の注意が必要という。このメーカーでは、それまで1試合あたり120個の公式球が使われていた。統一球の導入後、高校や大学などアマチュア野球でもプロと同じミズノ製に流れてしまい、売り上げが億単位でダウン。「厳しい状況」という。

「そもそも、統一球の製造をミズノが独占することに違和感があった」

 と話すのは、オリックス球団代表を務めた井箟(いのう)重慶・関西国際大学名誉教授だ。

「本来なら毎年入札してメーカーを替えていいのに、独占しているから、規定値より低反発の不良品が出ても替えがきかず、使い続けなければいけない事態になる。だから『在庫』という問題が起きたのでしょう」

 と、隠蔽の背景に一社独占の弊害があったと指摘する。

 前出のメーカー関係者も、「ミズノ側から(公表前に)『在庫を処理してくれないか』と(NPB側に)圧力があったんじゃないか。一社の独占だから、互いに縛られてしまう」と推測する。

 NPBは公表を控えた理由を「新旧の球が混在しており、混乱を招かないようにするため」と説明。在庫処理を優先させた事情が透けて見える。

 AERAの取材にミズノは、「(ボール変更の検討が始まった)昨年9月から生産調整をしており、在庫処理の圧力などは全くありません」と答えた。

 ただ、隠蔽工作が明らかになるまでミズノは一貫して「ボールに変更はない」と答えており、上場企業のコンプライアンスの観点からも重大な問題だろう。

AERA 2013年6月24日号