日本で一大市場を築いている「薄毛対策」商品。しかしこの薄毛市場、思い込みで動いている部分もある。

 そのケースのひとつが、いま市場で勢力を伸ばしつつある「男性用シャンプー・リンス」だ。特に2009年から3年連続でシェア1位(富士経済調べ、メーカー出荷量ベース)を保つアンファーの「スカルプD」シリーズ。「さあ立ち上がれ 髪の毛たちよ~」というCMソングが盛んにテレビで流れている。だが、担当者はこう語る。

「私たちは、このシャンプーを発毛、育毛シャンプーとうたったことはないんです。あくまで頭皮の状態を正常に保つためのもの。髪の毛も畑と一緒で、土壌がちゃんとしていないと髪は育たないという発想」

 薬事法上表示義務のある「有効成分」のうちピロクトンオラミンは皮膚の常在菌をコントロールするもので、グリチルリチン酸ジカリウムは一般にはフケを防止する作用。ほかにアミノウォッシュ+が髪に浸透するなどして、一本一本を太く、頭皮環境も整える、という説明だ。

 頭皮にジェット噴射させる「サクセス薬用育毛トニック」などのサクセスシリーズを手がける花王は、「薄毛不安層」への訴求を戦略の中心に据える。

「将来的に薄毛になるかもという不安を持っている若年層に『予防育毛』という考え方を浸透させていきたい」(担当者)

 サクセス薬用育毛トニックに11年から含まれるようになった「t-フラバノン」は、日本皮膚科学会がA(行うよう強く勧められる)~D(行わないよう勧められる)の5段階に分類した「男性型脱毛症診療ガイドライン」ではC1評価。合わせて売り出している頭皮マッサージ器具についても、血流改善と育毛の関連性はまだ認められていない。もっとも花王は「今年中に有効性を示す論文を提出する」という。

AERA 2013年6月10日号