下がるはずの長期金利が上昇し戸惑う黒田総裁。市場は「財政ファイナンス」を疑いだした。日銀が国債を買い上げて政府の借金を穴埋めするのではないかと (c)朝日新聞社 @@写禁
下がるはずの長期金利が上昇し戸惑う黒田総裁。市場は「財政ファイナンス」を疑いだした。日銀が国債を買い上げて政府の借金を穴埋めするのではないかと (c)朝日新聞社 @@写禁

 黒田東彦日本銀行総裁らしからぬ弱気な発言だった。

「短期金利と違って完全にコントロールできるものではない」

 5月22日の記者会見。下がるはずの長期金利が、逆に上がっていることを問われ、硬い表情で言い訳に終始した。「インフレ目標2%」を掲げて登場した頃は「政府が発行する国債の7割相当を市場から買い上げ、長期金利を抑え込む」と自信満々。市場などどうにでもなるような口ぶりだった。それが一転、好意的だったメディアまでも、翌日は「この日は歯切れの悪さが目立った」(日経新聞)など手のひらを返した。

 4日後、都内の講演で黒田総裁は一段と慎重姿勢を強める。

「金利上昇に対する耐性を点検することが一つの重要な課題だ」

 講演では、「財政の持続性に対する懸念を生じさせないためにも、財政構造改革に向けた取り組みを着実に」とも言った。

 日銀内部からは、「やっと日銀総裁らしくなってきた」と歓声が上がっている。日銀OBは、

「2%の物価上昇なら、長期金利は3%ぐらい上がってもおかしくない。国債に評価損が出て銀行が危うくなる事態があり得るから、白川前総裁は慎重だった。黒田さんも総裁になり立場がわかったと思います」

 日銀総裁の大事な仕事は二つ。一つは物価の安定、すなわち通貨価値を守ること。もう一つが金融秩序の維持、つまり銀行経営を安定させることだ。黒田氏は早くも日銀に取り込まれた、ということか。

「彼はそれほどヤワではない。一方で安倍首相の言うなりになるほど愚かでもない。日銀総裁になった今、どう立ち回れば最善か考えていると思います」

AERA 2013年6月10日号