政府が国民一人ひとりに番号をふり、個人情報を一元管理する共通番号制度が導入された。しかし少し前には「住民基本台帳カード」で番号が割り振られたが、これとは何が違うのか。またメリットはあるのか。専門家らに話を聞いた。

 共通番号は、十数桁の数字で構成され、国民にカードが配られる。約10年前に始まった「住民基本台帳カード」も11桁。システム(住基ネット)導入に約400億円かけられたが、カード普及率は、わずか5%だ。この二つは、何が違うのか。

 日本弁護士連合会(日弁連)で情報問題対策委員会副委員長を務める水永誠二弁護士が解説する。

「住基ネットの情報は、氏名、住所、性別、生年月日に限られ、しかも役所内部での利用が前提。市民生活には直接関係しない『見えない番号』でした。これに対して、共通番号は民間も含めた生活の至るところに登場する『見える番号』になります」

 国民一人ひとりに付けた番号に、役所が持っている税や年金、雇用保険、健康保険などの個人情報を結びつけ、一元管理する仕組みだ。利用範囲は2016年の運用開始時点で年金、税、福祉など93の事務に及ぶ。

 公平と利便。これが、共通番号制の必要性をアピールする政府のキーワードになってきた。辻村祥造税理士(横浜市)は、課税が公平になるとの政府の主張を否定する。

「所得を完全に捕捉するには、あらゆる取引を把握しなければなりません。例えば個人商店での日々の買い物まで税務当局が逐一掌握するのは物理的に無理です。また、利子や株式の配当、株式譲渡益は分離課税のままで、個人の不動産賃貸収入もすべては捕捉できず、高所得者に有利です」

 実は、政府が共通番号制のシンポジウムで配ってきた資料には「全ての取引や所得を把握し不正申告や不正受給を完全に無くすことは困難」と小さく記されている。

 一方、源泉徴収されている会社員の給与や副業収入を、税務当局が把握しやすくなる。勤務先などに共通番号を届けなければならず、給与などの支払い情報は番号とともに税務署に連絡されるからだ。辻村氏は、納税者の利便性についても疑問を投げかける。

「確定申告の仕組み自体は、今と変わらない。必要経費、医療費控除といった『人間の判断がかかわる部分』については共通番号によって機械的に処理できないからです」

 会社員には今より厳しくなるが、逆に分離課税による所得が多い富裕層には痛くないので、「限定的効果」という。

AERA 2013年6月3日号