弾道ミサイルの発射や核実験など、北朝鮮の破天荒な行動はとどまるところを知らない。だがその裏には、金正恩(キムジョンウン)が首領としての正当性を示そうとする狙いもあったようだ。

 北の内情をよく知る朴斗鎮(パクトゥジン)・コリア国際研究所長は正恩体制の「致命的弱点」を「後継者として表舞台に登場して2年半、いまだに正恩氏の革命神話が作られないこと」と指摘する。

 北朝鮮の初代首領・金日成(キムイルソン)氏は戦前に日本軍と戦った「抗日パルチザン伝説」、次の金正日氏は「革命の根拠地・白頭山(ペクトゥサン)密営で生まれたとの出生伝説」で権力の正統性を確保してきた。「密営伝説」の虚構は外国ではいまや常識だが、国内では広く信じられている。

「だが正恩は、出自を革命と結びつける材料が乏しい。偶像化が難しいのだ。国民とすれば、どこで生まれたかもわからない人間を崇拝せよといわれても困る。母親の高英姫(コヨンヒ)は日本からの帰国者出身で日本に痕跡が残る。外国をも騙し通せる捏造の革命物語が作りにくい」(同)

 正恩氏、正哲(ジョンチョル)氏(31)、正男(ジョンナム)氏は子供時代にスイスに送られ、その記録は現地に残り、何度も報じられてきた。「伝説作り」にはいかにも不都合だ。

 正男氏は「(父は)息子には継がせないと繰り返していた」と語っている。正日氏は2008年8月に脳卒中で倒れるまで後継問題を真剣に考えなかったのかもしれない。その結果急ごしらえの後継者作りとなり、偶像化の準備も決定的に遅れた。

「だからこそ、首領にふさわしい正統性を持つために、正恩は今回の核戦争騒動を繰り広げた。核とミサイルを使い、『米国の戦争挑発を撃退した偉大な軍事指導者』のイメージを国民にとことん植え付けたかったのだ。国民を食わせられず、正恩に本当の権威がないから、指導部は不安で仕方がないのだ」(朴氏)

AERA 2013年5月27日号