近年“中学受験パパ“が増えているという。SAPIX小学部教育情報センターの広野雅明本部長は語る。

「保護者との面談は、10年前は90%以上が母親だったのに、今は平日でも30%が父親、土曜になると40%に増えます。塾が主催する学校説明会などのイベントにも夫婦そろって出席するケースが目立ちますね」

 その背景として、長引く不況の影響を指摘するのは、安田教育研究所の安田理代表だ。

「働く父親は、経済が低迷し就職が厳しくなっていることを肌で感じている。子どもに安定した道を歩ませるため、難関大への進学実績が高い私立中高一貫へ進学させたいと思うのでは」

 教育情報誌の影響とするのは、中学受験カウンセラーの石田達人さんだ。

「2005年ごろから創刊された教育雑誌が中学受験の特集を組み、父親の参加が合否を左右すると、奮起を促したんです」

 単身赴任を乗り越えて受験勉強に関わった内田浩靖さん(47歳・東京都中野区在住)は自他共に認める勉強大好きパパで、勉強へのこだわりはハンパではない。現在筑波大学附属高に通う姉のトモミさん(仮名)、今年同附属中を受験した妹のアサミさん(仮名)はともに、浩靖さんが帰宅する土日に7~8時間指導を受けた。

 長女が通っていた塾のテキストを熟読。さらに中学受験関係の参考書や問題集を買い集めた。その数は100冊あまり。解法を思いつくとメモを取り、自分なりのやり方を生み出した。こうして完成したオリジナルテキストは、素人とは思えない質の高いもの。

「教えることも好きでしたね。難しいことを噛み砕き、小学生に理解できるように説明するのが楽しかった」

 時には声を荒らげることも。そんな時はクマのぬいぐるみを登場させ「アサミちゃんごめんね」と、声色を使って謝った。

「娘には生の感情をぶつけ、親として弱い面も見せてしまった。でも、それはそれで良かったと思います」(浩靖さん)

 アサミさんの受験は残念な結果に終わり、今は地元の中学校に通う。そんな時も、大らかな父親の存在が救いになった。

「母親は心配しましたが、やりきった満足感からか、本人は意外とさばさばしたものでした。僕も合否にはあまりこだわりがなかった。勉強は生涯続くもので、受験のために勉強したことは将来必ず役に立つ。どの学校に行こうが本人次第です」

AERA 2013年5月6日・13日号