この春、車の維持費が跳ね上がった。任意保険やガソリンも実質値上げだが、最たるものが自賠責保険だ。自家用の軽乗用車の場合、もっとも一般的な24カ月契約で、2万1970円から、4400円アップして2万6370円に。普通車の場合は、24カ月で2万4950円だったのが、2890円アップして2万7840円になった(沖縄県、離島を除く)。

 金融庁保険課は値上げの経緯をこう説明する。

「自賠責の保険料は、2008年に5年間の予定で大幅に値下げしていました。自賠責保険は利益も損失も出してはいけないとされており、これは以前の利益を還元するためのものでした。今年がその5年が終わる年にあたり、本来の水準に戻ったとも言えます。ただし、値下げ後、むち打ちなど軽度の後遺障害に対する支払いが想定より多く、予想以上のスピードで赤字が膨らんでしまったため、5年を待たずに値上げが必要になってしまいました。一挙に値上げするのも問題なので、2年前から段階的に上げることとし、今回が2回目の値上げとなります」

 だがこの説明、簡単には納得できない。なぜなら、交通事故は以前より明らかに減っているからだ。警察庁の統計をみると、2012年の死亡事故は4280件で、10年前の約半数に、重傷事故は4万4467件で約6割、軽傷事故は61万6391件で約7割にそれぞれ減っている。

 この点を前出の担当者に指摘すると、次のように答えた。

「最近の車は安全装置が良くなっているので、大事故にはなりにくい。その代わり、軽度の後遺症が逆に増え、むち打ちの治療期間などが延びているのです」

 自賠責保険の問題点を20年以上前から追及してきたジャーナリストの柳原三佳さんはいう。

「不景気になると『むち打ち』の被害者が増えるという問題は以前からあります。仲間同士で偽装事故を起こしたり、治療を長引かせたりする人たちがいるのです。ただ、そうだとしても、この説明は本当でしょうか。自賠責保険は限度額が決まっていて、払われる金額には上限があります。そもそも十数年前には、いずれ保険料は下がると説明していました」

AERA 2013年4月8日号