地元協議会では最年少で、ただひとりの女性。先輩の狩猟者は、見学会やフェイスブックでの情報発信を「どんどんやれ」と後押ししてくれる(撮影/写真部・時津剛)
地元協議会では最年少で、ただひとりの女性。先輩の狩猟者は、見学会やフェイスブックでの情報発信を「どんどんやれ」と後押ししてくれる(撮影/写真部・時津剛)

 農作物を食い荒らす「獣害」が深刻だ。現状をなんとかしようと立ち上がった若きハンターがいる。

 2010年に全国で鳥獣が起こした農業被害額は、239億円。国内の年間の農業生産額8兆1200億円に比べれば微々たる数字だが、山間部の集落では深刻な社会問題になっている。

 さらに深刻なのは、その獣を狩る狩猟者たちが激減していることだ。1975年に50万人を超えていた従事者は、2010年の段階で約4割に減少。しかも、残る狩猟者の多くが60歳以上で、高齢化に歯止めがかかっていない。

 そんななかで奮闘する若き狩猟者たちがいる。齊田由紀子さん(29)もその一人。暮らしている滋賀県日野町は、鈴鹿山系の西に位置する、人口約2万3千人の町だ。一昨年、日野町が野生動物に食べられるなどして被った農業被害は2436万円に上る。齊田さんは、同僚のハンターと年間700頭にも及ぶ鹿、猪を捕獲する。

 狩猟を取り巻く現状の厳しさを肌で感じる一方で、齊田さんはこうも感じている。

「若い世代の間で山や岩登りがスポーツや新しいライフスタイルとして見直されている。将来的には狩猟もそうなっていい」

 まずは見て、知ってもらわなければ始まらない。2月中旬の取材当日も狩猟見学会を開いていた。告知にフェイスブックを使う。集まった20人近い参加者に、複数の人と犬で獲物を狩る「追い込み猟」を実演した。獲れた鹿の解体も見せる。解体中、スマホ片手に鹿に歩み寄る若者もいた。

「若い人の反応はいい。狩猟に興味がないんじゃなく、知らなかっただけだと感じます」

 こう手ごたえを口にした齊田さん。自身も最初は、まさか狩猟をするなどとは思わなかった。前職は保険の営業員。4年前、ハローワークで見つけたのが町役場の仕事だった。農林課に採用された。

「それが着任して数日後にいきなり鹿の解体をやらされたんです」

 いま所属している日野町有害鳥獣被害対策協議会が農林課の所管だった。業務の一環として、畑の防除網にかかった鹿を解体し、以来、狩猟者の道を歩むことに。わな猟は4年前、散弾銃を扱える第一種銃猟は2年前に免許をとった。

「でも、農林課とまったく別のことをやっているとは感じません。農業や森林管理と狩猟はつながっていますから」

AERA 2013年4月1日号