本来なら時給で報酬が支払われるが、図書館側は作業を「内職」と呼び、シール1枚あたりの報酬を7円とした。単に本にシールを貼るだけではなく、本を書棚から持ってきてチェックリストを作成し、貼り付け後に照合するなどの作業が必要だった。作業が順調に進んでも2時間で50枚余りしか貼ることができなかった。

 これでは時給180円ほどにしかならない。しかも、会社は報酬を給与とは別に現金で支払い、その分の源泉徴収もしていなかった。正義感の強いAさんは、館長に訴えた。

「ありえない賃金額です。内職という形もまずいし、源泉徴収しないのも違法ではないですか」

 Aさんが再三訴えたため、会社側はシール貼り作業の一部を通常の勤務時間内に行うことを認めた。作業効率は上がったものの、時給は300~500円程度止まり。10月下旬まで結局、当時の東京都の最低賃金時間額である837円に達した人は一人もいなかったという。

 翌12年1月、Aさんは突然、会社側から契約の更新を拒否され、退職を迫られた。同館の契約スタッフ18人のうち、契約が更新できなかったのはAさんだけだった。

AERA 2013年2月25日号