アルジェリアでテロの犠牲者となった5人の「派遣」。惨事から浮かび上がった「格差」の実態とは。

「海外旅行保険」

 今年1月にアルジェリア・イナメナスで起きた人質事件で犠牲になった内藤文司郎さん(44)に、人材派遣会社エーアイエル(東京都千代田区)がかけていた保険だ。

 内藤さんは同社の契約社員として、プラント建設大手の日揮(横浜市)に3カ月の予定で派遣され、天然ガス生産施設で働いていた。内藤さんの死亡に対する補償責任は、まずもってエーアイエルが負う。

「(補償は)まだ決まっていませんが、私たち単独ではなく、日揮側からもあると思います」

 稲塚博社長はそう話す。とは言え、内藤さんの遺族への補償は、現時点でほぼ確実なのは海外旅行保険だけ。日本損害保険協会によると、標準的な海外旅行保険では、今回のようなテロ行為の犠牲者は支払いの対象になるという。関係者によると、保険金は数千万円という。

 派遣か、正社員か──。

 海外の仕事場でともに働き、同じ釜の飯を食う仲間であっても、立場が違うと、死亡した場合の補償に際立った差異が出うる厳しい現実を、今回の事件は改めて示している。

 社員5人が犠牲になった日揮。彼らに対して、どんな補償があるのかは、「申し上げることはできません」(同社広報・IR部)。

 海外で事業展開する企業の労務に詳しい社会保険労務士の大野実さんによると、一般に日揮(従業員約2200人)と同規模の企業だと、社内の規定に従って、補償金や弔慰金を遺族に支払うことが多いという。労務行政研究所が上場企業を対象にした調査(2011年)では、業務に絡んで死亡した社員の遺族に企業が支払う補償金は平均約3100万円、弔慰金は平均約350万円(支給に備えた保険に加入している場合)だった。

 加えて、大手社員であれば国から労災保険金が出る可能性も高いという。大野さんが言う。

「海外赴任者を何人も抱えている大企業には、労災保険の『特別加入』をしているところが多い。対照的に、中小零細企業では、制度を知らないなどの理由から、未加入のところも少なくありません。海外に送り出す従業員については、国内と違って労災保険の加入義務はないので、保険がまったくかけられていない場合も考えられます」

AERA 2013年2月18日号