自民党総裁選で本命視されていた石原伸晃氏を「明智光秀だ」と指弾し、安倍政権の生みの親となった麻生氏は、その功で、副総理・財務相・金融相という破格の扱いを受けている。

 だが、「恩に報いた処遇」が今、微妙なひずみを政権に生じさせている。

 金融政策で首相の知恵袋は、インフレ目標を求めるいわゆるリフレ派の学者だ。「日銀が抵抗するなら日銀法を改正して総裁の首を切れ」と主張する岩田規久男・学習院大学教授や竹中平蔵元総務相らの助言がアベノミクスに採用された。

 麻生氏は「日銀叩き」に否定的で、総裁の条件も「役所の出身者はダメというような制約は必要ない」と語り、暗に元財務事務次官の武藤敏郎氏を推す。

 経済の司令塔・経済財政諮問会議の人選でも、すれ違った。永田町関係者が言う。

「首相は竹中さんに委員を依頼したが、麻生さんが反対し、話が壊れた。竹中さんにはわびを入れ産業競争力会議の委員に回ってもらったということです」

 竹中氏への遺恨は小泉政権時代にさかのぼる。総務相だった麻生氏は、経済財政諮問会議を仕切る竹中氏に郵政改革で何度も煮え湯を飲まされた。守旧派扱いされた記憶は拭いきれず、諮問会議で顔を合わせるなどありえない、と譲らなかったという。「恨み」は政治家の言動に深く影を落とす。

 その麻生氏の“復讐”に乗ったのが、財務省だった。

 財務省には譲れない原則がある。(1)予算編成の主導権(2)消費増税の実現(3)国債の安定消化だ。かつて予算の主導権を脅かされたことがあった。小泉政権の経済財政諮問会議。竹中担当相が官僚抜きで会議の裏方を組織し、財務省を無視して政策を動かそうとした。安倍首相が復活させる諮問会議でその轍(てつ)を踏みたくない。竹中氏の諮問会議入りを阻止すべく根回しに走った。頑張ってくれたのが、利害が一致した麻生氏だった。

AERA 2013年1月28日号