歌舞伎から現代劇まで多くの人を魅了した中村勘三郎さんが57歳の若さで亡くなった。出演舞台をずっと見ており、本人にも度々取材を行ったというライターの千葉望氏は、在りし日の中村さんの意外な一面を明かす。

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 私は生前、勘三郎に4回取材している。喜怒哀楽の激しい人らしく、そのうち2回は不機嫌な顔で現れた。直前の打ち合わせや稽古で納得のいかないことがあったのだという。勘三郎が機嫌を損ねるのは、「お客様の立場に立っていない」「これじゃあおもしろくならない」という時と決まっていた。だが話をしているうちに持ち前のサービス精神が頭をもたげ、どんどん愉快になっていくのが常だった。

 最後に会ったのは一昨年6月に行われたコクーン歌舞伎「佐倉義民傳」直前の取材である。命を捨てて農民を救う木内宗吾役を演じるとあって、

「宗吾様の影響で、あたしがすっかりいいヒトになっちゃってるもんだから、お弟子さんたちが『旦那、ずっと宗吾様やっててください』って言うんだよ」

 と笑い、ご機嫌だった。

AERA 2012年12月17日号