近年、これまでの観光地とは一味違った「秘境」への旅行が注目を浴びている。

 日本人にとっての最後の秘境といえば、近くて遠い国、北朝鮮。1万2千もの峰々がそびえる金剛山(クムガンサン)など、まだ見ぬスポットも数多い。ところが2006年、当時の安倍内閣による経済制裁の一環で、国は民間人の北朝鮮への渡航自粛を要請。

 ある旅行関係者が言う。

「渡航は違法ではないものの、この要請をきっかけに多くの旅行会社が北朝鮮ツアーを自粛した。今も北朝鮮への観光旅行は、行きにくい状況が続いています」

 朝鮮旅行の総代理店「中外旅行社」でも、現在パックツアーの販売はしていない。その代わり、客からの申し込みがあれば、北朝鮮旅行のチャーター便などを手配する「手配旅行」という形でのツアーのみ案内しているという。

 プレミアムな「場所」を味わう王道の秘境ツアーのほか、いまブームなのは、プレミアムな「体験」によって“心の秘境”に踏み込むツアーだ。人気は発展途上国での社会貢献を組み込んだ海外ツアー。ざっとネットで検索しただけでも、カンボジアでの井戸掘りあり、砂漠での植林あり。スラムの現状を見るインド・ムンバイのスラム街見学ツアーなんていうのも。

 この手のユニークツアーを扱ってきた中小旅行会社に注目が集まっているほか、今や大手も参入。エイチ・アイ・エスでも「ボランティアツアー」のコーナーを設けて、国内ボランティアのほか、カンボジアの孤児院を慰問するなどの海外ボランティアツアーを多数企画している。

 体験ツアーではこうしたボランティア系に加え、「ウルルン」系と呼ばれるジャンルも人気上昇中だ。芸能人が世界各地でホームステイするテレビ番組「世界ウルルン滞在記」にちなんで、一般観光客がめったに訪れない秘境地域でホームステイ。言葉も通じないホストファミリーとの心の交流にジーン……のようなツアーのことをいう。

AERA 2012年12月3日号