執拗につきまとい行為などを繰り返す「ストーカー」。言葉は耳にするようになったが、警察に相談しても、深刻さをわかってもらえないと多くのストーカー被害者が口にする。

 これについて性障害専門医療センターでストーカー加害者の治療をする精神科医の福井裕輝さんは、根本的な問題を指摘する。

「警察は物的証拠や目に見える被害で犯罪の軽重を判断するが、ストーカーの場合は内面の危険性を考慮しなければ、重大事案に発展するかどうかの判断はできない。従来の捜査だけでは対処できない」

 福井さんは警察庁からの依頼を受け、ストーカー事案の危険度を見分けるチェックリストを作成した。今年から数カ所の警察本部で試験導入されている。

 チェック項目は約60。例えば、加害者については「自分のことを有能だと思っている」「喜ばせようと思ってしたことに激怒したことがある」など、被害者については「自分を犠牲にしてでも相手の世話を焼く」「悲しみや怒りを人前で表現するのは嫌」など。これらに多くチェックがつくほど危険度が高い。警察が窓口で相談者に危険度チェックをしてもらい、介入の緊急性などを判断する目安にする。

 逗子市でストーカー殺人事件が起きた、神奈川県警も試験導入の対象だったが、試行中のため、3月に受理した事案にはチェックリストを使ったが、4月に受理した今回の逗子の事案には使わなかった。もし危険度が認識されていたら、警察の対応も違ったのではないかと福井さんは悔やしがる。チェックリストは来年度から全国で本格導入予定だ。

 今回の逗子の事案では、警察がどんなに取り締まろうとも、ネット情報や探偵を使って被害者に忍び寄るストーカーの怖さも浮き彫りになった。逗子の事件で容疑者は最終的に、探偵に依頼して被害者の住所を突き止め、翌日、犯行に及んでいた。

「依頼者がストーカーやDVの加害者かどうか警察に照会する手段がない以上、危険性を見分けられない。通常は、依頼者から調査結果を犯罪行為に利用しないという誓約書をもらうが、ウソを見破るのは困難」(探偵協会の戸塚敦士さん)

 では、頻発するストーカー事件を防ぐ手段はないのか。前出の福井さんは、「司法から医療につなげるシステム」構築の重要性を訴える。ストーカー加害者は、自らも思考や行動に悩み、医師やカウンセラーに相談すると改善に向かうケースが多い。ストーカーは「1人」に対する感情の歪みなので、小児性愛など不特定多数が対象の場合より治療しやすいという。

AERA 2012年11月26日号