異文化を学び、体を美しく整え、そして強さも手に入れる。そんなゼイタク志向の女性たちに、ぴったりの格闘技が話題を呼んでいる。

 インド南部、ケララ州に4世紀から伝わる伝統格闘技「カラリパヤット」を学ぶ女性(39)は、こう魅力を語る。

「動き一つひとつに『相手を倒す』という意味があると思ってやると、一段と力が入るんです」

 レッスンでは入念な柔軟体操から、手を首前でクロスする構えに始まり、足を蹴り上げる基礎運動、相撲の仕切りの時のように腰をぐっと後ろに突き出し両手を鼻の前で合わせる「象」のポーズや、「馬」「ヘビ」など動物の名前を冠した姿勢を取り入れた連続運動を練習する。

 カラリパヤット歴11年のインストラクター浅見千鶴子さんの声に導かれるように受講生が動く様は格闘技というよりダンスにも見えるが、

「ダンスはもっと洗練された動き。カラリは体の直感に響く感じなんです」(浅見さん)

 手をクロスしながらの動きや奇妙に見える動物のポーズも、実は急所を覆い隠し素早く相手を制圧するための合理的な構えだ。千年以上の時を経て格闘技として研ぎ澄まされた動きが「波のように強さを秘めた流麗さ」(浅見さん)につながるという。それに惹かれてか、女性受講者もじわじわ増えている。

 相手を制圧するために研ぎ澄まされた技術という点では、ロシアの軍隊で発祥した「システマ」はその極致かもしれない。ユニホームも型もなく、「呼吸を続ける」「リラックスする」「姿勢を保つ」「動き続ける」の基本を守り、最低限の動きで相手を制圧する格闘技で、冷戦終結後、急速に世界に広まった。

「強そうな人間は戦場では真っ先に狙われる」と、地味な動きを旨とし、カポエイラやカラリパヤットのような華やかな動きは全くないが、こちらも女性の競技人口が増えているという。

AERA 2012年11月26日号