世は空前の缶詰ブームなのだ。

 平日の夜7時すぎ。缶詰バー「mr.kanso(ミスターカンソ)」神田店は、すでに仕事帰りの会社員らでにぎわっていた。高さ2メートルほどの棚には、150種類もの缶詰がぎっしり。「サンマのかば焼き」や「サバのみそ煮」などおなじみの缶はもちろん、おしゃれなデザインの缶やハングルなどが書かれた海外製のものもあり、200~2千円の値段が貼ってある。好きな缶詰を選ぶと、店側が温めたり焼いたり、ひと手間加えて出してくれる。

 このmr.kanso。「缶詰倉庫」と、システムが「簡素」というのが店名の由来だ。2002年に大阪・なんばに1店目をオープンして以来、珍しさや気軽さがうけて、現在8都府県に18店舗を展開している。

 地味なイメージだった缶詰がここ数年、見直されてきている。グルメもうなる「おつまみ缶」や「総菜缶」なども開発され、缶詰を使ったレシピ本も毎月のように出版されている。

 食品・酒類卸売大手の国分が一昨年から酒の肴さかなとして販売している「K&K缶つま」シリーズは、「広島かき燻製油漬け」が500円、「ムール貝の白ワイン煮」が400円、「霧島黒豚角煮」が800円(いずれも税抜き)など、ちょっとお高めだが大ヒットしているという。

 同社によると、1年目は14アイテムで100万缶、2億円弱を売り上げ、2年目の昨年は24アイテム、売り上げは180万缶、3億5千万円とほぼ倍増。

 今年はスペインバルで出される料理をイメージした「小鰯のオリーブオイル漬け」「マテ貝の塩漬け」など新たに15アイテムを加え、300万缶、5億円以上の売り上げを見込んでいる。

 同シリーズの生みの親で、商品開発を担当する森公一さんは、

「缶詰のつまみというと、『おじさん、しょぼい、カップ酒』のイメージでしたが、その逆を突く、おしゃれでプレミアム感のある商品を目指しました」

 イメージアップに成功し、酒の売り場にも置かれるようになった。ABCクッキングスタジオと連携して女子向けのレシピを開発し、女子会イベントを頻繁に開催している。

AERA 2012年11月26日号