近年の男性にみられる「妻だけED」という症状。他の女性とはできるのに、妻とだけできないというものなのだが、この症状は男性だけで女性も傷つける場合があるという。夫にまったく触れられない生活が続くことによって、傷つく妻もいるのだ。

 越谷病院こころの診療科の精神科医で獨協医科大学教授の井原裕氏は、うつ病の人のカウンセリング過程で、夫婦間のセックスレスにもぶつかる。

「夫が自宅でAVを堂々と見て、自分にはまったく触れないという女性の患者さんから、浮気をしている、と打ち明けられたことがあります。EDであれば仕方がないですし、AVを見るのもいいでしょう。しかし、AVを見たことを隠すのは、男としてのエチケット。妻の女としての自尊心を傷つけるようなエチケット違反を、『妻だけED』の夫がしている可能性は大いにあります。その結果、妻も浮気に走る。そういうケースも多いと思いますよ」

 その上で、『妻だけED』の背後には、夫の働きすぎによる性欲の低下、夫婦だけになることが難しい日本の住宅事情、相手の性のメカニズムの理解不足があるのではないかと言う。

「しかし、現在の結婚難の時代に、せっかく縁あって夫婦になれたお2人です。それはいわば、結婚生活、性生活の第1ステージに立てたということ。そこでセックスレスになってしまうということは、奥深い夫婦生活の第2ステージの扉をまだ開いていない、ということです」

 と、井原氏は言う。

 確かに、アエラ「妻だけED」の自覚のある既婚男性に実施したアンケートでも、「妻だけED」の7割強は、妻への愛情が「ある」、夫婦関係も「良好」と答えている。

 妻以外の女性との新鮮で刺激的なセックスは、罪悪感さえなければ非常に魅力的だ。それに対して、安心感の中で戯れ、時には妻がリードし夫が従うなど、その夫婦ならではの方法で絆を深めていくセックスは、夫婦という決まったパートナーならではの味わいだろう。その境地を目指して、双方が歩み寄ることが、「妻だけED」の処方箋なのかもしれない。

AERA 2012年11月19日号